焔と彩編 別れの挨拶
こうして晴れて名実ともに<パートナー>となった陽と和と麗だったが、だからといって何か改まった様子もなく、まったくこれまで通りだった。
まあ、今までも実質的にパートナーとして一緒にいたからな。あくまでそれを、
『公に宣言した』
だけだ。
とはいえ、まったく同じというわけじゃない。一応は<別世帯>になったということで三人のための<家>を新築することになったんだ。
もっとも、それも少し前から準備を始めていたんだけどな。いくらか木を伐採して土地を広げ、整地し、基礎工事を行って、後はプレハブを設置して内装および外装の仕上げを行う段階だ。作業はエレクシアとイレーネとドーベルマンDK-aが行うからあと数日で家は完成する見込みか。新と和も手伝ってくれてる。正直、生身で手伝えることなんて微々たるもんだが、自分達の新居だってことでただ黙って見てるのは落ち着かないという感じなんだろう。そういう部分がまた<大人としての自覚の発露>かもしれない。
なお、プレハブについてはアリアンを使って一度に輸送。トレーラーに乗せた状態で仮設ヘリポートまで運んだそれをローバーで牽引して集落に持ってくる手はずになっている。しかもそのローバーの運転を新がする予定だったり。もちろんエレクシアかイレーネにやってもらった方が安全だし確実ではあるものの、<ローバーの運転>もここで生活するには必要な技能の一つだし、敢えて経験を積むために行う話になったわけだな。万が一の事故に備えてエレクシアとイレーネがサポートする形で。すでにローバーの運転の練習は結構前から始めてたんだよ。これは和も同じ。どちらかが運転できてればそれで足りるというんじゃなくて、
『どちらも運転できて当たり前』
だと二人とも思ってる。これといってわざわざそう教えたわけじゃないが、俺もシモーヌも光も運転できるから、自然とそういうものだと思うようになったんだろうさ。
『〇〇は誰の役目』
的な考え方はあまりない。生身の人間が生きていく上で必要な部分については誰もができた方がいいと思ってるんだ。俺自身、料理も洗濯も掃除もできる。あまり得意じゃないから普段はやらないだけで。
そんな中で新との<別れの挨拶>が行われた。
当然のように非常に簡潔なそれだが。
でも、それがいい。自分の命を精一杯生きて、しかも<我が子>を守り通した彼を労うにはそれで十分だ。
『他の誰かに対して自分がこんなにも悲しんでるというアリバイ作りをする』
ためのそれじゃないからな。俺達自身が納得できればいいんだよ。
「新、今までありがとう。お疲れさん」




