焔と彩編 彼女の役目
『レトを庇った新が、マンティアンの牙に捉えられてしまった』
その現実を俺の脳が理解するのを拒んでしまったのが、自分でも分かった。
『新!』
と彼の名前を口に出そうとしてもできなかった。『咄嗟のことだったから』という以上に、そうやって彼の名前を口にしてしまったら、目の前の現実を認めることになってしまうのが怖かったのかもしれないと思う。
<不幸>というヤツは、不思議なことに続く時はなぜか続くよな。まあそう感じること自体が<バイアス>というものなんだろうが、こういうのは『たまたま』でしかないんだろうが、当事者からすると本当に、
『ふざけるな!!』
って話だよ。
だがこれは、『誰が悪い』という話じゃない。ルナもレトも悪くない。竜生もマンティアンさえ悪くないんだ。強いて言うなら、
『そこまで想定していなかった俺が悪い』
だけだな。
でも今はそんなことを言ってる場合じゃない。
「エレクシア! 新を助けろ!」
俺はほとんど無意識のうちにそう命令していた。竜生に前に姿を現した彼女がそのまま新の救助に向かうことで何が起こるのかを、まったく考えることができていなかった。
もっとも、先に結論を述べるなら、
『何も起こらなかった』
けどな。さらに状況を悪化させる結果にはならなかったということだ。幸いなことに。
だから『不幸が続く』という話自体、自分が不幸だと感じるような部分だけを切り取って捉えるからそう感じてしまうというのもあるんだろうさ。
それに加えて、目の前の不幸に動揺してしまって余計なことをしてしまったり、逆にするべきことをしなかった所為で別のトラブルを呼び寄せてしまったりか。
今回は幸い、エレクシアが突然姿を現してそしてすぐにどこかに去ったことを、竜生はそこまで気にしなかったようだ。
竜生をレトやルナのところに誘導するような結果にはならずに済んだ。
そしてエレクシアは、新の首筋に食らいついたマンティアンの顎を掴んで万力のように締め上げ、離させた。
「ギキッッ!?」
マンティアンにしてみればいきなり何者かに顎を掴まれて途轍もない力で締め上げられたんだから、それこそ何がなんだか分からなかっただろう。しかもそのまま振り回されて投げ飛ばされたんだからな。
ただし、エレクシアがマンティアンの相手をするわけじゃない。彼女の役目はあくまで新の救出。それを履き違えることはない。
だから、その場で<手術>を始めた。ナノマシン注射を含む応急処置だけで搬送していては間に合わないと判断したからだ。




