焔と彩編 命を軽んじる発想
まあとにかく、<竜人>の様子を注意深く見守ることにする。そのための<目>や<耳>はすでに配置済みだ。
ドローンを木にとまらせ、カメラやマイクとして使うのもいつものことだな。そして竜人もさすがにそれには気付いてる気配もない。
ますらおやホビットMk-Ⅱらが離脱した後も、しばらく周囲を警戒している風にも見えたが、やがて問題ないことを察したか、その場で自分の体を舐めだした。大きく裂けた口から、四十センチくらいありそうな長い舌をぞろりと出して、しかも頑強そうな見た目とは裏腹に恐ろしく柔軟に体を捩じって背中の方まで舐めていく。
その振る舞いはあくまで<獣>であって、<人間(地球人)>のそれじゃないよな。だから今のところは<コーネリアス号のメンバー>としての意識の片鱗も見えない。
もちろん、だからといって<ただの獣>として蔑ろにしていいとは思ってない。現状だと同種の存在が確認できていないから<種>として定着できるかどうかは疑問ではあるものの、<命>であることには変わりないから、軽んじるのも違うだろう。
<命を軽んじる発想>
というヤツは人間自身にとっても大きなリスクだ。もちろん逆に、
『人一人の命は地球よりも重い』
なんてのも極端すぎてマズいが、命を軽んじる発想はダイレクトに人間自身の首も絞めるし、実際にそういう<事件>も歴史上では無数に見られたはずだ。
ゆえに俺達は命を軽んじないように心掛けてる。
と同時に、
「こいつの名前は<竜生>としよう」
恒例の<名付け>を行う。なんとなく皆、俺が名前を付けるものだと思ってるらしいからな。別に誰が付けてくれてもいいんだが、特に光には俺の跡を継いでもらうことになるだろうからこの役目もと思うんだが、どうにもあまり興味を示してくれない。
まあ俺も単に<ノリ>でやってたところが大いにあるし、無理もないのか。
それに、
『名前を付ける』
ってのは、これはこれで大変なことなんだよな。名前を付けてしまうとそこに強い<縁>が生じてしまうから、いろいろ背負い込むことになるわけで。
たとえほとんど触れることがなくても、話題に上ることがなくても、俺が名前を付けた者達の存在はしっかりと俺にのしかかってきてる。名前を付けることもしなかった存在でさえ場合によっちゃそれなりの重みを感じるってのに、名前まで付けてしまうとな。
特に、連や蓮華のことは今でも<抜けない棘>のように俺の心に引っかかってる。
そういうものを背負い込むのはなかなかにきついものがあるよ。




