焔と彩編 離脱
『もしかしたらこの竜人は、私やメイガスと同じなのかも……』
ビアンカのその発言は、十分に有り得る話だった。ビアンカ自身やメイガスの例が実際にある以上は、『有り得ない』と断定することはできない。
「そうだね。私はここでの経験が浅いのもあってその辺りの感覚がまだまだ身に付いていないのを感じるけれど、ビアンカの言う通りだ」
レックスも素直にそう言ってくれる。そこで、『それはない』的に頭ごなしに否定してこないところに、彼の<研究者としての矜持>を感じるよ。
データ不足でほとんど何も確定的に語ることができない現状でビアンカの発言を一方的に否定するのは、<論理的><理性的>とは言えないだろ。
できればもう少し早くその発想に至れていればと思わなくもないものの、今さら悔やんでも詮無い話だ。それに、
『コーネリアス号の誰かの人格と記憶を備えているかもしれない』
こと自体が現時点では<可能性の一つ>でしかない以上、
<最悪の事態を想定した対応>
もやっぱり必要ではある。だから、今しばらく竜人への攻撃は続行する。続行するが、同時に竜人の様子についてもこれまで以上に慎重に観察する。僅かな変化についても見逃さないようにしなくちゃな。
特に、<地球人としての意識を取り戻したと推定される振る舞い>がみられた場合には、即時攻撃を中断しなきゃならないだろう。
是非とも味方になってもらわなきゃいけないし。
コーネリアス号の搭乗員と敵対するのは断固避けたい。デメリットしかないだろ。
その上で改めて今の時点では、
『敢えて敵対行動を取ることで誘導を試みる』
という作戦を続行するんだ。あらゆる可能性を想定しつつ、状況の変化に即応できる体制を維持しつつ。
どんなことでもそうだろうが、一つの可能性だけに絞って行動するのは危険だよな。もしそれで当てが外れたら総崩れになるだろうし。
という俺達の思惑の下で、ますらおとホビットMk-Ⅱらは淡々と自分達の役目を果たしていく。
おかげで結構な距離を誘導することができたと思う。
「ここまで離れれば、アカトキツユ村が目的地ではない場合は進路から外れると思われます」
イレーネがそう告げてくれたことで俺も、
「よし、攻撃中止! 全速で離脱しろ!」
と命令を出すことができた。それを受けてますらおとホビットMk-Ⅱらがすかさず攻撃を中断して離脱を開始。方向はもちろん、アカトキツユ村から遠ざかるそれで。
竜人がそのまま追ってきても大丈夫なように。




