焔と彩編 その可能性はある
そうしてますらおとホビットMk-Ⅱ達が、攻撃を加えつつ移動することで、竜人を誘導した。
と、再び画面の中の竜人が青く光ったように見えた瞬間にノイズが走って、ホビットMk-Ⅱらのステータス画面に警告が灯るのと同時に一機が機能停止。
これで五機目。すでに半数近くが破壊されたことになる。軍事行動なら<壊滅>と判断されるレベルだな。
しかし、いざとなればますらおだけででも対処してもらう覚悟はすでに決めている。
結果、ますらおまで破損することになるとしてもだ。
ここまでのデータから、竜人の戦闘能力そのものは牙斬に匹敵すると推測された。つまり、竜人が自身の能力のすべてを発揮すれば、ますらおではまったく歯が立たないということだ。それこそエレクシアでないと倒すのはおろか誘導すらままならないだろうな。
しかし、今の竜人は、自身の力をセーブしてるのが分かる。それは、
『手加減してる』
とか、
『ナメて掛かってる』
とかいう意味じゃない。あくまで自身のスタミナを適切に配分しようとしているだけだろうな。決して後先考えずに暴走しているわけじゃない。
その点でも、<人間への憎悪>ゆえに狂乱状態にあった夷嶽や牙斬とは違うだろう。普通に<獣>として自分の身を守ろうとしているだけだ。己の限界を超えて全力を出してるといずれ自滅するしな。
だからこそ無理はしない。無理をせず自身のペース配分を行うだけの冷静さと知能は備えているということだろうな。
それだけになおさら手強い相手のような気がするし、同時に、こちらから無闇に敵対しなければ穏当に共存していける相手である可能性も出てきたか。
まあ、こうやって攻撃を仕掛けてしまった今では、間違いなくますらおやホビットMk-Ⅱらを<敵>と認識してしまっただろうが。
しかし、ついさっきまで猪山の体内にいたはずにも関わらず、<生まれたての赤ん坊>のような拙さを感じさせないのは、
<不定形生物由来の生物らしい不条理さ>
ではある。
その姿を取った時点で何らかの<経験値>をすでに備えているんだ。まあそれ自体は、シモーヌ達がオリジナルの記憶を有した状態で顕現したことからも、それほど不思議じゃないけどな。
だが同時にふと思う。と、
「もしかしたらこの竜人は、私やメイガスと同じなのかも……」
ビアンカが呟くように口にした。俺の頭によぎった考えと同じものだった。
「確かに、その可能性はある」
レックスも賛同してくれた。
ああそうだ。ロボットを見てもコミュニケーションを取ってこないとなれば<記憶>そのものは戻っていないにしても、可能性は否定できない。




