焔と彩編 根源的な振る舞い
ここまで見てきた<竜人>の様子からは、凶や嶽や夷嶽や牙斬とは異なる印象を受けた。
『人間を激しく憎悪している』
感じがしないんだ。が、考えてみれば<蛟>も、実はただ常識外れなほどに狂暴だっただけで、『人間を激しく憎悪している』ような様子はなかったな。
ということは、やっぱり<不定形生物由来の怪物>だからといって『人間を激しく憎悪してる』とは限らないのか。『人間を激しく憎悪してる』ってのを前提に対処するのは適切じゃないってことかもしれない。
そういうのも情報が蓄積されることで分かってくるんだろうさ。そのこともわきまえなきゃいけないと思う。
しかし今回についてはこうなってしまった以上、ここからどう落し所を見出していくかが重要だ。
「<彼>の、いや<彼女>かもしれないが、これまでの様子から、攻撃性が非常に高いことは伺える。だから敢えて敵対行動をとることで誘導できる可能性は十分にあると思う」
俺も『そうするしかないか』と思っていたことをレックスが肯定してくれる。
その一方で、
「だが同時に、腑に落ちない部分もあるんだ」
とも。
「腑に落ちない部分……?」
聞き返す俺に彼は、
「ああ。あの竜人は、猪山の体内から現れたと同時にアカトキツユ村を目指すかのように躊躇なく移動を始めた。それが気になるんだ」
冷静に告げてくれる。そこは俺も気になっていた。
「もちろん『たまたま』という可能性はある。断定的に語るには情報が少なすぎるからね。それでも、動物の行動には必ず<意味>があるんだ。まったく無意味そうに見えても、人間の目には本当に些細なそれに思えても、当の動物にとっては確かに意味がある。<本能に従った行動>と言われるものかな」
「本能……」
「ああ。<摂食><繁殖><帰巣>それらに代表される、生体に組み込まれた根源的な振る舞いだね」
確かに、俺もここで暮らしてレックスの言う<本能>ってもんが生き物を動かしてるんだってのを実感させられた。俺の子供達は俺の姿を見ていたことで<人間として生き方>ってもんの片鱗を知っちまったかもしれないが、それ以外の生き物達も、そんなものを学んでなくても見てなくても、自分の命ってものをまっとうするためにできることをする。できる。人間(地球人)が失ってしまったものをしっかりと持ってるってのをな。
「アカトキツユ村に、あの竜人が行かなきゃいけない理由があるってことか……?」
「いや、<アカトキツユ村がある方向>に、かな。単にその方向に村があるというだけの可能性の方が高いと思う」
「なるほど」




