焔と彩編 竜人
猪山の背中から<竜人>とでも言うべきものが飛び出してきたのは、さすがに予想外だった。猪山の体の中に<不自然な熱の偏り>があったことについても、あくまでなにか特殊な働きをする<器官>なんだろうと思っていたんだ。
それがまさか、
<別の生き物>
だったとは……
もちろん<寄生虫>なんかはまさしく、
<他の生き物の体に入り込む独立した生き物>
なんだろうが、それは知ってるが、さすがに、
『猪山の体の中にまったく別の獣が潜んでいる』
なんて発想は俺にはなかった。フィクションにおいてはそういう話もあるにせよ、少なくとも俺もシモーヌもシオもレックスも予測してなかった。<実在する生き物>をよく知っていればこそそこまでの発想には至れなかったんだ。
そんな俺達を嘲笑うかのように、<竜人>は猪山が走ってきた道を引き返しつつ恐ろしい速さで密林を駆け抜けた。
時速は優に五十キロは出ている。猪山の背後についていたホビットMk-Ⅱが対処しようとしたが、それすら容易くすり抜けて走っていく。
だが、その竜人の前に立ち塞がる者がいた。
ますらおだ。
指揮のために少し離れた位置にいたますらおが、すかさずフォローに入ったんだ。
スタン弾が装填された自動小銃を構えて引き金を引くと「パパパッッ!」と乾いた音を立ててスタン弾が放たれる。
さすがに実弾よりは弾速が遅くても生き物の反応速度じゃ弾丸そのものを躱すことは無理なんだろう。竜人の体を確実に捉える。
しかし、竜人はそれに怯む様子さえ見せなかった。顔だけは腕で庇ったものの、スタン弾の直撃にも平然としていたんだ。
それはおそらく、竜人の体を覆っている<鱗>の所為だろうな。<不定形生物由来の怪物>が当たり前のように備えるようになった<タングステン並の強度を持った鱗>は、それ自体の強度に加え、何重にも重なって生えていることで<衝撃>さえ和らげる<緩衝材>の役目も果たしているんだと思われる。
相変わらず非常識極まりない存在だ。
しかしそんなことはどうでもいい。問題はこいつがアカトキツユ村の方に向かっているという事実だ。それを阻止するために、ますらおは<実弾が装填された自動小銃>に持ち替えて躊躇なく放った。
<怪物>相手なら実弾さえ致命傷にはまずならないのは分かっているからな。と言うか、むしろ実弾こそが、
<怪物にとってのスタン弾>
と言ってもいいか。
それくらい、<普通の獣>とはかけ離れているんだよ。こいつらは。




