焔と彩編 とんでもないもの
「ギピッッッ!?」
猪山が悲鳴を上げ、巨体をビクリと震わせた瞬間、背中の<風船のような瘤>が、本当に風船のように破裂した。
<透明な血液>が弾け飛び、周囲を濡らす。見た目にはただの水のように見えるだろうが、おそらくすさまじい<血の臭い>が満ちてるだろうな。
だがそれ以上に、
<とんでもないもの>
が。
猪山の背中から<何か>が飛び出したんだ。
そしてそれも、<透明な体>を持っていた。だから人間の目には正確な形は掴めなかった。これまで見たことのある種のそれをしていればおそらく脳が自動的に補正してくれるだろうが、
<見たことのないもの>
は補正のしようもない。ないが、捉えた映像を光莉号のAIが処理して、俺達にも見えるようにしてくれた。
「人間……? いや、竜……か?」
呟く俺の隣で、
「竜人?」
光がそう口にした。瞬間、俺にもピンときた。
人間に近いシルエットを持ちつつ、しかし明らかに人間(地球人)ではない姿。強いて言えばクロコディアに近いか。だが、クロコディアを知っていればこそ、それとはまったく違っているのが分かってしまう。
長い首と前後に長い頭。大きく裂けた口。全身は鱗状のものに覆われ、クロコディアのそれよりもはるかに長い<尻尾>を持つ何か。
まさしくフィクションの中に出てくる<竜人>と呼ばれる空想上の生き物そのものだった。
「身長約二メートル。推定体重百五十キロ。<人間の姿を模した鵺竜>とでも呼ぶべきものと思われます」
イレーネが淡々と解説してくれたのを、呆然と耳にする。
「これは、実に興味深い……」
レックスがそう口にするが、俺としてはそれどころじゃなかった。ここ朋群の生き物を散々見てきたからこそ、<こいつの姿の意味>を感じ取ってしまう。
「こいつは、地球人と鵺竜の混血だ……」
クロコディアも鵺竜を祖先とする生き物とコーネリアス号の乗員達の遺伝子とのハイブリッドが基になっているのは遺伝子解析で分かっている。分かっているが、だからこそクロコディアは<鵺竜>じゃない。鵺竜とはまったく別の種なんだ。
しかし、猪山の体から弾け出たこいつは鵺竜そのものなんだと、俺の直感が告げていた。
<地球人の遺伝子を持つ鵺竜>
だとな。
もちろん地球人と鵺竜の間で子供なんかできるわけがないから<混血>という言い方は適切じゃないだろうが、
<双方の形質を受け継いだ個体>
という意味じゃきっと間違いなく<混血>なんだよ。
それこそ、こいつこそが<朋群人>ということにさえなりかねない、な。




