焔と彩編 自滅した場合は
<不定形生物由来の怪物>であると推測される猪山ではあるものの、だからこそ生物としては無理のある構造をしていたようだ。猪竜をそのままサイゾウレベルまで巨大化させたことは、<放熱の問題>を生じさせて、自滅を招いてしまった。
これは、猪山のような<怪物>だけじゃなくて、<不定形生物由来の生物>には常につきまとうものだった。
<生物としての成り立ち>
に無理があって長く生きられないとか、生き物ならできて当然のことができなかったりするのはな。
その中でたまたま<生きていける成り立ち>を得た者だけが生き延びて種として定着していくわけだ。
この点で、ヒト蛇や猪山は<生き延びられる種>じゃなかったということでもある。
なお、
『怪物を倒す度により強い怪物が現れる可能性がある』
という点については、まだ否定も肯定もされていない。こうやってヒト蛇ほども脅威とは言い難いのが現れるということは、
『倒してしまってもさらに強いのが現れるとは限らない』
という証拠になるような気もしてしまうが、だがそれは決して、
『さらに強いのが現れないということを担保してくれる』
わけでもないのも事実のはずなんだ。
だから俺は、意図的に倒してしまうことはこれからも避けていこうと思ってる。
ただ今回のように、
『自滅した場合はどうなるのか?』
というのは気になるところではある。俺達の予測では、
『攻撃を受けて倒された場合はその攻撃に対処できるような能力が新しく付与される』
というのが概ね一致した見解だ。
レックスもこれについて、
「データ不足ゆえにあくまで<仮説の域>は出ないものの、それを強く否定できる根拠も、今の私は持ち合わせていない。だからこそ<最悪の事態>というものは常に想定しておくべきだと思う」
と言ってくれている。
無事に帰れる保証のない<惑星探査>という任務に就きつつも生き延びる確率を限りなく高めるための努力を惜しまなかった人間らしい考え方だと思わされる。
それでいて決して<悲観論者>というわけでもないんだよな。だからこそ生きるための努力もできるんだ。安易に諦めたりもしない。
尊敬に値する人物だよ。
とはいえ、そんなレックスでさえ、<不定形生物由来の生物>については理解の外にいるようだ。
「ゲ……! ゲヒ……ッ! ヒーッッ!!」
地面に倒れ伏した状態で、猪山がなんとも言えない悲鳴を上げる。
と同時に、猪山の背中の一部が瘤のように膨れ上がった。いや、<瘤>と言うよりはもはや<風船>か……?
それを見た俺の背筋に冷たいものが走るのが分かった。




