焔と彩編 目くじらを立てるべきは
そうだ。どれほど<霊長類>などと自惚れてみても、
『他の動物とは違う』
などと戯言を口にしてみても、人間はどこまでいっても<動物の一種>でしかない。だから、
<動物として不自然な振る舞い>
をすれば結果としてバランスを欠いてしまうんだろう。
しかし同時に、人間は<知恵>や<技術>で、その<欠いたバランス>の辻褄を合わせてしまうことができる動物でもあった。
最初の内は技術そのものが十分じゃなかったことで上手くいかなかったものの、現在ではようやく<非婚>や<高齢者介護>についても無理なく成立させることができるようになった。
『これによって人間は自然の摂理の頸木から解き放たれた』
と考える者もいるらしい。
さすがにそこまでは飛躍のし過ぎだと俺も思うものの、しかし、確かに人間(地球人)というのは非常に特殊な生き物だというのも間違いはないんだろう。そのニュアンスであれば、
『人間は他の動物とは違う』
的な言い草もなるほどとは思える。
だが、ここに至るまでにはあまりにも多くの<不幸>を生み出し、途方もない<犠牲>を払ってきたはずだ。だから俺としてはそれを手放しでは喜べないし、喜びたいとも思えない。
それでも、起こってしまったことは取り消せないし、なかったことにもできないんだよな……
だったら、ここから先、同じような不幸を生み出さず、犠牲も払わずに済ませたいじゃないか。
焔と彩が、穏やかに<ひなたぼっこ>をしている姿を見て、俺はつくづく思ったよ。この光景がこれからも当たり前のように見られるような社会でありたいと。社会を作りたいと。
具体的に社会が出来上がる頃までは焔も彩も生きてはいないだろう。実際、凛はもう亡くなった。彩に残された時間も長くはないはずだし、それは焔や新も同じだと思う。
地球人社会の常識から言えば俺の判断は<異端>なんだろうが、そもそも地球人社会での認識が先鋭的過ぎたんだろうなと俺は感じるんだよな。目くじらを立てるべきはそこじゃないだろう?と思うんだ。
相手が望んでもいないのに強引に関係を迫るような事例にこそ注力すべきだと思うんだがなあ。
ただ、先にも触れたように、あまり表立ってこういう事例を肯定してしまうと、今度はそれを逆手にとって悪用する奴も出てくるだろうなというのは事実だと俺も感じる。
無闇に攻撃するのは好ましくないと思えても、そういうリスクも無視できないのも承知している。
だからこそ悩ましい。
エロスに惑わされるのが減ればリスクも減るんだろうにな。




