焔と彩編 否定はしない
そうだ。今の人間社会では、<自殺>も容易じゃないんだ。自殺者の数も二十一世紀頃に比べて大幅に減ってるが、それは結局、
『ロボットに止められたから』
というのがもっとも大きな要因だとも言われているし、それを示すデータもあるらしい。
俺の実感としても、
『そりゃそうだろう』
とは思う。完全な通りすがりの強盗すら、その場に居合わせたロボットが連携して被害を防ごうとするんだ。自殺しようとしてる人間なんて、それこそ止めないわけがない。
しかも、自殺を止めた上で行政をはじめとした関係諸機関と連携してフォローも行ってくれるし。
何より、自殺に踏み切る前に徹底的にケアしてくれるしな。
ロボットは人間と違って遠慮もしないし躊躇わない。必要とされる対処は徹底して行う。それが結果として無駄に終わったとしても、余計なお世話に過ぎなかったとしても、人間のように後悔もしない。恥ずかしいと感じたりもしない。
人間はついつい、
『無駄になったらどうしよう』
とか、
『余計なお世話だったらどうしよう』
とか、考えすぎてしまって行動に移せなくなったりするだろう? その辺りの<体裁>や<同調圧力>などについても、そもそも<心>を持たないことで事実上存在しない。
自身の<主人>に最適化することでそれぞれ<異なる考え方>をするようになったりはしても、
『他と違うことを恥じる』
こともないし、
『気に病む』
こともないんだよ。そして基本的に、
『違ってることを咎める』
こともしない。
まあ、メイフェアが<グンタイ竜の女王>を、
『シモーヌと同じ姿をしてるから』
という理由で守ろうとした時にはエレクシアがそれを咎めるようなことを口にしたし実際に『咎めた』が、それは結局、
<試験的に感情を再現したロボット>
であるメイフェアが、
<ロボットとしては正しくない振る舞い>
をしたからだし。
ああそうだ。メイフェアは、
<人間ではないグンタイ竜の女王>
を守ろうとして人間である俺と敵対しようとしたんだ。だからエレクシアはメイフェアを咎めた。エレクシアは、前オーナーによる無理な改造の所為で多少バグっている部分はあるとはいえ、まだロボットとしては正常な範囲内に収まっていたがゆえに。
そんなことでもない限り、ロボットは相手を咎めるような真似はしない。
存在を否定することもしない。たとえそれが、
<己自身を否定して殺害しようとしている人間>
であってもな。死を選ばずにいられない人間のことも否定はしないんだ。




