焔と彩編 人生を謳歌してただけ
そういう諸々を背景にしつつも、俺の方は考えさせられつつも、当の焔と彩達はまるでお構いなしにただ自分達の人生を謳歌してただけだった。
腹が減れば餌を獲りに出て、互いに気持ちが盛り上がれば求め合って、満たされれば穏やかに眠りにつく。
ただただそれをずっと繰り返してきた。
人間のように旅行に出たりするわけでもイベントに出かけたりするわけでもなく、傍目には退屈なようにさえ思える毎日を淡々と過ごしてきたんだ。だから特に触れるようなこともなかった。触れる必要もなかった。触れたところで本当に毎日同じことを記すしかできなかったしな。
それでいて二人の姿は俺の目にもちゃんと満たされているように見えた。余計な口出しをする必要は感じなかった。子供ができなかったことについても二人が何か悩んでるような様子もなかったし。
だからこそ余計な口出しをせずに黙って見守ることができてたんだよな。
その一方で新と凛の場合は、子供を望んでいない新と子供を望む凛との間で度々、喧嘩のようなことも起こっていた。
でもまあどちらかといえば凛が一方的に新を責めている感じだったが。それを新は面倒臭そうに逃げ回っていたのが実際のところか。
それでもしばらくすれば落ち着いて仲もよさそうにしていたのが、ある時から完全に別行動するようになった形だな。
この時点でもう関係の修復は不可能だったんだろうさ。
だから俺は、凛をレオン本来の生息域である草原に連れて行ったんだ。コーネリアス号が不時着した草原にな。
最初は少し戸惑った様子だった凛も、すぐにレオンとしての感覚が目覚めたのか、当たり前のようにレオンとして暮らし始めた。
近くには走と凱もいたが、彼女のことを覚えていたみたいで多少は警戒している風だったにせよ、追い払おうとまではしなかったよ。
完全な野生のレオンであればたとえ兄弟姉妹であっても縄張りや餌を奪い合う<敵>ではあるものの、やはり俺の下で育った影響がそういうところでも感じられるな。
何にしても、同じ時に生まれた姉妹でありながらも彩とは別の選択を行ったのは事実だ。
人間だけに限らず、<別の個体>であればそれぞれ異なる選択を行うのはむしろ当然のことだろうさ。
どちらの選択が正しくてどちらの選択が間違ってるなんてことも言うつもりはない。彩も凛も、俺の目には不幸には見えなかったしな。
幸せであればそれでいいし、そうじゃなければ『残念』とも思うにせよ、二人の場合はそこも大丈夫だった。




