焔と彩編 自らを演出
確かに愛想よく笑顔でいた方が周りからの印象は良くなるだろう。印象が良くなれば上手くいくものも多くなるだろう。それを否定するつもりはない。
だが、
『笑顔でいることを目的化する』
のはさすがに違うんじゃないか? とは思うんだよな。
<不自然で違和感すら覚える相手を作ってしまうような笑顔>
は、好きになれない人間も少なくないはずなんだ。
なるほど芸能人なんかはそれこそ常に『演じて』たりするだろう。特にアイドルなんかだと、人前で見せてる姿は一から十まで<演技>であって、ある意味じゃ<嘘>だったりもするんだろうさ。そしてだからこそ人気を得たりもする。
しかしそこはあくまで<そういう仕事>だからだろう? そういう<役割>だからだろう? 芸能人でもない人間がそこまで極端に自らを演出しなきゃならないものか? 『異性の前でいい顔をする』程度のことはあっても、『求職の際の面接なんかで印象を良くしようと猫を被ったりする』ことはあっても、本人が望んでもいない<特訓>を行ってまで身に付けなきゃいけないことか?
それでも、実際に『まさかあの子が』『まさかあの人が』と言われる程度にはその作り笑顔を評価してくれる人間もいるんだから、その辺りは『どっちを取るか?』という話でもあるだろうさ。
だがそこはあくまで本人が自らの意思で選ぶことのはずだ。たとえ親であっても一方的に押し付けるのは違うだろ。
俺がもしそんなことをしていたら、今のこの関係はなかっただろうな。
まあ、焔も彩も新も凛も、ただ好き勝手やってただけだけではありつつ。
でも、自ら無闇に誰かを傷付けようとはしてなかったから、誰かの恨みを買わなかったのは間違いない。
そりゃ、和や陽や麗が遊んでる時に、それに夢中になって焔達のパーソナルスペースを侵したりしたら、
「ガーッッ!!」
と鬼の形相になったりもしたけどな。とは言えその辺は俺達よりはずっと野生に近いからこそのものであって、人間の<狭隘さ>とはまた別のものだろうさ。
『何でも自分の思い通りになるわけじゃない』
のを人間の方がわきまえていれば、そこまで拗れることでもないし。
その点、和も陽も分かってくれてる。何もかもを自分の思い通りにしようとはしない。
実に理性的だよ。
かといって<四角四面>ってわけでもないのがまたいい。
適度にゆるくて朗らかなんだ。
俺がガッチガチに真面目ぶってたわけじゃないのが影響してるのかもとは思う。
光は生真面目なところもある子だが、やっぱり四角四面ってわけじゃないしな。




