焔と彩編 生きる目的
焔と彩のことを語る上で重要な前提としておきたいのが、
『子供を作って育てることが生きる目的じゃない』
って点だ。それを<生きる目的>と規定してしまうと、それこそ二人は、
『生まれてきた意味がなかった』
って話になってしまう。
俺は二人の父親として断固それには反対する。反発する。確かにここまでほとんど触れることもなかった二人だが、それは決して、
『触れる価値がなかったから』
じゃない。あくまでも、
『触れなきゃいけない、触れずにいられないだけのあれこれがなかっただけ』
なんだ。二人は二人なりに自身の生を謳歌してくれてたし、穏やかで幸せそうだったんだよ。<触れる必要>がなかっただけなんだ。
これも一種の、
『便りがないのが良い便り』
ってヤツだと思う。特筆すべきあれこれが起こるのは、当人にとってはやっぱり相当なストレスになるはずだし、俺としてはそういうのは望んでない。ましてや他人が聞いて『面白い』と感じるようなエピソードなんてのは、それこそ大きなストレスだろうさ。
焔も彩も、他人を楽しませるために生きてるわけじゃないんだ。俺もそうだ。本人が望んで、
<他人を楽しませるための人生>
を選んだのならそれについてはとやかく言うつもりもないものの、誰もがそんな選択をするわけじゃないし、俺も焔も彩もそんな選択をした覚えはないんだ。
だから、
『特筆すべきエピソードがない』
というのはむしろ好ましいことだと俺は思ってる。
そもそも俺には、
<何気ない日常を面白おかしく描くスキル>
なんてものも備わってないしな。
だがそれでも、二人に残された時間がいよいよ残り少なくなってきたかと思うと、敢えて触れておきたいと思ったのも事実なんだよな。
しかも、焔がそうだということは、彼の兄である誉にもその時が迫っているという話でもある。ただ、メイフェアという大変な力を得ているとはいっても厳しい野生の中で生きてきたはずの誉よりも、焔の方が今では年上のように感じられたりもするんだ。
より『衰えがはっきりしてきている』と言うか。
そういう意味では、彩も、同じ歳だったはずの凛よりは衰えがはっきりしてきている事実はある。が、先に命の幕を閉じたのは凛の方だった。
これはやっぱり、野生の中で生きてきた誉や凛よりも『衰えを隠す必要がない』のが影響してるのかもしれないとも感じるか。
しかも人間(地球人)の、
<自然な生物としての寿命>
は、一説によると四十歳程度とも言われているな。
だから<獣人>達の寿命も基本的にはその程度なんだろう。明は少し早かったかもしれないが、かといって特別短命だったわけでもないと思う。




