焔と彩編 親になる
そうだ。敢えて相手を『見限る』ことも時には必要になってくると思う。
そこで変に執着するとかえって状況を悪くしたり、余計につらくなったりすることもあるのは事実のはずだ。
その点、凛はしっかりと新を見限ってくれたし、新の方も、自分とは考え方が違ってしまった凛を見限ってくれたのは幸いだった。
まあ、多少の未練はあったのかもしれないけどな。凛と違って新しくパートナーを見付けようともしなかったし。
それでも、自身の境遇を恨んで周りに八つ当たりするようなことがなかった分、十分に割り切れてた気がする。そこで周りに迷惑を掛けるような真似をするなら、俺としても相応の対処はしなきゃならなかっただろうが、それもなかったし。
本当に何度でも言うように、何度でも確かめなきゃいけないことだが、俺の勝手でこの世に送り出したんだ。その子が誰かに迷惑を掛けてるとなれば、放ってはおけないさ。
『親になる』
ってのは、そういうことだと俺は思ってる。特に人間の場合はな。なにしろ<人間>をこの世に送り出すんだ。その気になれば自然そのものを破壊しつくすことさえできてしまうような、それどころか人間自身を何度も滅ぼしてしまえるような、そんなとんでもない力を持った存在を送り出すんだぞ? その程度の覚悟も持たずに親になるとか、能天気に過ぎるだろ。
野生の場合は、我が子が生きていく糧になることこそが必要なんだろうけどな。
まあ、明も深も翔も丈も走も凛も、そして來も、直接そうなったわけじゃないが、しっかりと我が子が生きていくための素地は作ってくれたからな。そういう意味での<糧>にはなってくれたと感じるよ。
決して我が子の足を引っ張ったりはしなかった。
それは事実だと思う。
この点、焔と彩は、<子供>を迎えることができなかった。だがそのことは決して、二人が『劣ってる』という意味じゃない。あくまでたまたまなんだ。『子供を迎えることができなかった』のは。
『子供を作って育てなければ一人前とは言えない』
なんて俺は言わないし、言うつもりもない。そんなことは思ってない。生き物である以上はそれも目的の一つであるのは確かでも、すべての生き物がそれを必ず成せるわけじゃないしな。成せない者も常に存在する。そしてそういう者には『価値がない』のか?
それも違うだろ。子供を作って育てることが<生きる目的>ってわけでもないだろ。俺はそう思うんだ。あくまで<用意されている目的の一つ>ではあっても、それがすべてじゃない。




