閑話休題 ラケシス
ラケシスは、クロコディアである。
メイガスを母に、当を父に持ち、<真っ当なクロコディア>としてこの世に生を受けた。
<運命の三女神>の一柱の名を与えられながらも彼はれっきとした<雄>であり、幼い頃はあどけない様子も見せていたものの、満年齢で六歳を迎えた今では、若さこそ感じられるもののもうすっかり一人前のクロコディアである。
ゆえに両親とはもうすでに一緒に行動はしていない。
クロコディアは、複数の個体が近くに集まって暮らす傾向にはあるものの基本的には<群れ>を作らず、すべてが自身に帰結する生き方をしている。<仲間意識>と呼ばれるような感覚も極めて希薄な種族だった。
つまり、同じクロコディアであっても同じ餌やパートナーを奪い合う<敵>なのだ。
あくまで『理由がなければ無闇に敵対し合うわけではない』というだけで。
母親であるメイガスは、惑星探査チーム<コーネリアス>の一員であった、
<メイガス・ドルセント>
の記憶と人格を受け継いで顕現した存在であったため地球人としての感覚も備えてはいたものの、見た目は完全に、
<例の不定形生物由来の肉体を持つ透明なクロコディア>
だったのもあり、敢えて<クロコディアとしての生き方>を受け入れていた。
その気になれば錬是達と合流して<人間としての生き方>を選ぶこともできたにも拘わらず、彼女はそれを選ばなかった。
彼女のその選択を理解できない人間は多いだろうが、むしろそれが大多数だろうが、そんなことは野生の世界には関係ないし、メイガスという個人にも関係ない話であった。
『彼女はクロコディアとしての生き方を選んだ』
それだけが事実であり重要なのだ。『なぜ?』は、自分じゃない人間を完全に理解できると考える者の思い上がりでしかない。
だから錬是達も、それを完全には理解しようとは考えなかった。あくまでメイガス自身の選択を尊重し、過度に関わらないことを心掛けているだけである。
しかしその一方で彼女は、必要とあらば助けを借りる強かさも持ち合わせている。まだ幼かったラケシスが<アーマード・ピラルク>に襲われて重傷を負った際には躊躇なく救助を求めた。そういう時のために、彼女の声が届く範囲にドローンが待機しているのを知っていたからだ。
そのようなこともありつつ、ラケシスは順調に育ち、今ではもう余人の助けを借りずとも自らの生を掴み取ることができている。
母親のメイガスも、母親としての心配はしつつも彼を尊重してくれていた。




