凛編 エピローグ
翌朝。凛の心臓が停止してから十二時間が経過し、萌達が彼女の死を受け入れたらしいのが確認されたところで、ドーベルマンDK-a伍号機が遺体を収容。アンデルセンが引き継ぎ、改めて詳細にチェックを行い、不可逆的な変化が生じているのを確かめたことで、埋葬に移る。
大人数でぞろぞろ外に出てると萌や凱達が警戒するから、俺とシモーヌだけが代表で参加し、見守った。
「おつかれさま、凛……」
「ゆっくりと休んでね……」
ドーベルマンMPMらによって墓穴に収められていく彼女にそう声を掛ける。当然のように胸が締め付けられる感じがあるが、それでもまあ落ち着いてる方かもな。
こうして、予定よりも丸一日長引いたが、俺達は元の日常へと戻っていくことになった。
そうだ。<自分の子供>が命を終えても、別に世界が終わるわけじゃない。それどころかほとんどなにも影響することなく世界はただ続いていくだけだ。むしろそっちが当たり前なんだよな。
『そいつが死ぬと世界が終わる』
なんてのは、ただの絵空事だ。そんなことが起こる時点でその世界は破綻してるんだろうさ。
だから走が死んでも凛が死んでも、それを<大きな変化>だと感じてるのは身近な者達だけで<群れ>でさえそのまま続いている。
凛の群れの方はそもそもの<家族>が残ってただけだし、走と凱の群れについては小集団ごとにリーダーがいて、走と凱はそれらのまとめ役でしかなかったというのもあるんだろう。
意図してそうしたのかどうかまでは分からないものの、本当に巧くやったものだよ。親として感心する。
凛の群れの方は、
『家族として上手くまとまってる』
しな。
ありがたい話だ。
そして俺達の集落も、特に変化もなくただそれぞれがそれぞれの命を謳歌してくれている。錬慈も萌花もメイもな。
ああでも、<変化>そのものはあったのか。
走の墓に参るための<遠出>がきっかけになったのかどうかは分からないが、
「祖父ちゃん、俺、麗と結婚することにしたよ。和ともな」
陽がそんなことを報告しに来た。
どうやら前々から彼なりに考えていたようだ。麗と和を自分のパートナーにすることを。母親である光には以前から相談していたらしい。あくまで彼自身の問題だから、彼が結論を出すのを待っていたと。
なら俺もそれに従うさ。
「お前がそう決めたのならその通りにすればいい。ただ、麗や和を悲しませるなよ。それだけは肝に銘じておけ」
俺の言葉に、
「もちろんだよ」
と応えた彼の表情は、すっかり<一人前の男>のそれになってたと思う。




