凛編 凛への想い
『現実は自分の思うようにはいかない』
『人生は自分が望んでる通りにはいかない』
何度も何度もしつこく自分に言い聞かせていても、頭では分かっているはずでも、<望まぬ事態>を前にすると動揺したり憤ってしまうのが人間ってものだよな。
だからこそ、フィクションで自分が期待してる展開じゃなかったりした時にはキレるんだろう?
今回のことも、エンターテイメントを標榜する普通のフィクションなら、
『ふざけるな!』
とキレられるヤツだろうな。
でもな、自分以外の存在が常に自分の思い通りになってくれるなんてことはないんだよ。それをわきまえてないと『生きる』なんてのはそれこそただただつらいだけだろうさ。わきまえてるつもりでも、つらいことは多いんだしな。
なんてことを改めて自分に言い聞かせつつ、眠っている錬慈を抱いてアリアンから降り、シャトルバスに乗り込んだ。灯とビアンカはもう先にローバーで直接向かったそうだ。
こうしてコーネリアス号に戻ると、
「お父さん……」
さっきは積もる話に花を咲かせた<元・コーネリアス号搭乗員用の食堂>で待っていた灯が、さすがに神妙な表情で、沈痛な様子のビアンカと共に出迎えてくれた。シオとレックスもいる。
凛の遺体はまだ収容されておらず、彼女の家族が取り囲んで、毛繕いをするかのように彼女の体を舐めている様子が壁に設置された大型モニターに映し出されていた。そうすることで凛を起こそうとしてるんだろう。孫達までが一緒になって、懸命に丁寧に舐めていたんだ。
もちろんそんなことで死んだ者が生き返るわけじゃない。あくまで人間ほどは<死>という概念に囚われていないことで、自分達にできることをしようとしているだけなんだろう。
だからこそそれは、胸が締め付けられるような光景だった。ビアンカはそれこそ涙ぐんでいる。
「蒼穹と黎明は……?」
モニターを見つめながら気懸かりを口にした俺に、
「部屋でぐっすりだよ」
「そうか……」
無理もない。シャトルバスからアリアンに乗り換えて、またすぐに空港に引き返してシャトルバスに乗ってとしてた錬慈や萌花でさえ目を覚ますことさえなく今はゲストルームとして利用してる部屋で寝てるし、和や陽は一応は起きていたものの今は一緒に眠っている。当然、麗もだ。
凛への<想い>は、あくまで俺個人のものだ。錬慈達までそれに付き合う必要はない。幼い子供にそんなものを強要したところで理解もしてくれないさ。そういうのは成長と共に他者との関わりを深めて自然と宿していくものだ。




