凛編 チャイルドシート
『小さな子供はチャイルドシートを嫌がる』
というのが世間の親の認識だったりするらしいが、それは実際には若干意味合いが違う。
『チャイルドシートが嫌』
なんじゃなくて、
『チャイルドシートを強要されるのが嫌なだけ』
というのが多いらしい。高圧的に頭ごなしに強要されるからチャイルドシートに嫌な印象を持ってしまうことが主な原因なんだと。
実際、錬慈は別にチャイルドシートを嫌がらなかった。彼にとっては、
<ただの椅子>
でしかないからな。
確かに、窮屈に感じたりして本質的に嫌がる子供も中にはいるだろう。でもな、それで嫌がったからといってキツい態度で怒鳴ったりすればますますチャイルドシートに対する印象が悪くなると思うんだよな。
ことさら嫌な印象を持たなければ、ある程度は慣れで何とかなるものなんじゃないかとは感じる。
まあ、錬慈の場合はそもそもチャイルドシートを嫌がらないからな。加えて、俺もシモーヌも別に強要しないから嫌な印象もこれといってないんだろうさ。
そうして彼は、ちんまりと収まってくれた。その姿がまた可愛くて、頬が緩んでしまう。
ああそうだ。錬慈は可愛いんだよ。光も灯も可愛かったが、同時にどこか凛々しさも感じさせていたのが、錬慈の場合はただただ可愛いだけなんだ。
男の子の場合、『可愛い可愛い』ばっかり言ってるとこれはこれで嫌になってきたりするらしいが。
俺の学校時代の友人の中にも、物心ついてからも親をはじめとした周囲の人間達から可愛い可愛い言われてきたことでうんざりしてたのがいたな。女の子は『可愛い』と言われたら嬉しいかもしれないが、男の子はなあ。可愛いと言われるのを、
『バカにされてる』
『見下されてる』
みたいに感じるのもいるんだとか。だから俺も、彼に対してはあまり口に出して『可愛い』とは言わないように心掛けてる。彼の<自尊心>を尊重すればこそ、自分の感情ばかりを無制限に優先しようとは思わないさ。
とは言え、可愛いのは事実だからな。彼を見てると頬が緩みつい『可愛い』と口にしてしまいそうになる。てか、たまに口にしてしまう。
でもまあ、たまにならそこまで気にすることもないかもしれないけどな。いつもいつもしつこく言うのが嫌がられるだけで。
そんな彼とは対照的に萌花は同じようにチャイルドシートに座りながらも、ツンと澄ましたような様子で姿勢よく座っている。そして、
「れんじ、こういうところではおぎょうぎよくするものだよ」
とか、口にしたんだ。




