凛編 おつかれさま
そうして、<単なる日常の一コマ>として走が自らの命を終えた翌日、今度は釈が息を引き取った。
十二時間の経過観察により蘇生の可能性が完全になくなったのを確認した上で走の亡骸を埋葬している最中、
「釈が息を引き取りました」
と、アンデルセンからの連絡を受けたエレクシアが報告を。
「な……?」
さすがにこれには俺も虚を突かれた感じだった。『まさか』と思った。生きている以上はその可能性だって別にゼロじゃないとはいえ、本当にそんなことも起こるんだなとは思わされたよ……
ただ、釈は走よりもそれなりに年上だったしな。順番で言えば本来なら釈の方が先でもおかしくなかったはずだが、まるで走が亡くなったことで生きる気力を失ったかのように力尽きたようだ。
最初は反目していても、走にとっての一番は恵であっても、釈も走を愛していたんだな……
そしてこれにも凱は悲しんだ。走を悼んで上げていた遠吠えがやんだ途端のそれで、再び遠吠えを上げる。
釈はあくまで走のパートナーの一人だったが、なんだかんだ言っても凱にとってももう<家族>のようなものだったし。
最初は走と共にイジメられもしたものの、力を認められてからは一緒に群れをまとめ上げてくれていたんだ。まあ、釈の方は凱にはまったく興味もなかったようだが。
それでも家族のようなものだった事実は消えない。そのことと凱の認識とは関係がない。一緒に暮らしていて意地悪でもされていたならともかく、そうじゃなかったわけで。
「……」
そんな凱を、恵は冷淡にも見える目で見つめていた。彼女にとっては<パートナーの弟>であり、パートナーと共に群れを支えていた存在ではあっても<レオン>としては恵の方がずっと『普通』だからな。凱の方が『普通じゃない』んだ。
ここまで仲間の死に感情的になるのは<普通のレオン>じゃないんだよ。
だが、それでいい。それで何も問題はない。普通だろうと普通じゃなかろうと、どっちでも構わない。凱は凱だし、恵は恵だ。
三人にとって走はかけがえのない存在だった。釈が後を追うように亡くなったのも、凱が遠吠えを上げたのも、恵が気丈に振る舞っているのも、中心にいたのが走だったからだろうな。
たとえドラマチックな最後でなくても、走の生涯そのものはドラマチックなものだったと思うよ。
だからこそ最後は穏やかに迎えてほしかったし、そのとおりにしてくれたと思う。
親として誇らしいし、安堵する。
おつかれさま。走。釈。




