凛編 相手を喜ばせるための行動
『相手が喜んでくれるのが嬉しい』
これは、<感情の動物>である人間にこそ顕著に見られる心理的な反応だ。
『相手を喜ばせるために行動する』
というのは、人間特有のものだそうだ。なるほど確かにイヌとかは主人を喜ばせようとするかのごとき行動を見せたりもするものの、実際には、
『それをすると主人が自分を褒めてくれる。自分が気持ちよくなれる』
のを目的としていて、あくまでも、『自分が気持ちよくなりたいから』とのこと。
いやまあ、人間だって相手が喜んでくれると自分も気持ちよくなったりするんだが、こう、上手くニュアンスを伝えるのは難しいものの、微妙に違うんだよ。
なにしろ人間の場合、相手の<下心>というか、
『自分が気持ちよくなりたいからやってる』
というのが透けて見えると気持ちが冷めたりするだろう? 嫌な気分になったりもするだろう?
『弱者を助ける』
とか、
『被災者を支援する』
とかの時なんかだとそれこそよく分かるんじゃないか?
『あ、こいつ、自分が気持ちよくなりたいからやってるだけだな』
ってタイプがいるじゃないか。そういうのを見てて嬉しいか?
まあ、イヌの場合はそれでも『可愛い』と思えるにしても、まったく見ず知らずの赤の他人や普段からあまりいい印象を持ってない相手が『自分が気持ちよくなりたいから助けようとしてる』のを『可愛い』と思えるか?
思えないならそれが<答>だろうさ。
錬慈も、
『萌花が喜んでくれると自分も嬉しいから果物を分けたりもする』
のかもしれないが、まあ単純に『可愛い』しな。そしてそうやって可愛いと思ってもらえるようなうちにこういう経験を積むことで、自然な感じで誰かの力になれる振る舞いが身に付いていくのかもしれない。
変にぎこちなかったりすると相手も素直に喜べなかったりするだろうし、明らかに下心丸出しで普段やらないことをしてきたら、勘繰ってしまうどころか『気持ち悪い』と感じてしまったりもするだろ?
なんにせよ、<家族>というのはその手の経験を積む相手としてはこれ以上ない存在のはずなんだ。
なのに、そういう経験を積めるような家族仲じゃなかったら、いきなり他人相手に実践しようとしてもその振る舞い自体が板についてなくて上滑りしたりするんじゃないか?
俺の言ってることのニュアンスが理解できない人間もいるだろうが、それも結局は<経験不足>があってのことかもしれないな。
などといろいろ語ったが、とにかく凱は凛とその家族を大切に想ってくれてるのは事実だろうさ。




