凛編 真っ当な生き方
とは言え、走と凱はそれこそ、
<二人で一人のボス>
だったわけで。
この若い雄が走や凱と同じように<二人で一人のボス>をやれるかどうかは分からないものの、これまた俺がとやかく言うことじゃないとは思ってる。
あくまで彼ら次第だ。
彼らとしても正直なところ、そんなに先のことまでは考えられてはいないだろう。あくまで目の前のことに全力を注いでるだけだと思う。
しかもそれは、侑も同じ。ただただ目の前のことに真剣なだけだろうな。
実に<野生の獣>として真っ当な生き方だ。
さりとて、ピークを大きく過ぎた今の彼には、いくらまだまだ未熟とはいっても血気盛んな若い雄二人を同時に相手するのはさすがに厳しいものがあったようだ。
ここでよくあるフィクションのように、若造二人をあしらってみせれば盛り上がるのかもしれないが、現実はそんなに甘くない。若い雄の方も、不穏な気配は見せつつ今日まで実際の行動に移らなかったのは、力の差を見極めようとしていたからかもしれない。『論理的に』ではなくても、『感覚的に』自分が勝てそうかどうか感じ取れるというのはあるのかもな。
日常的に命のやり取りをしているからこそ。
<正面からの力比べ>
では<年の功>の前に後れを取ったが、本当に単純な体力勝負であれば、むしろ侑に勝ち目はないのが当たり前か。
それでも、侑も黙ってやられてはいない。力任せで単調になりがちな若い雄が飛び掛かってきたところに、カウンターで<張り手>というか<掌打>というかが見事に決まる。いや、厳密には<掌底打ち>という感じか。
「ガッッ!?」
思いがけない一撃を食らった若い雄が、声を上げつつ派手に転倒。無様を見せる。
まあ、素人の俺でも分かるくらいに完璧なカウンターになってたからな。そりゃこうもなろう。若い雄がだらしないんじゃなく、侑が巧みだっただけだ。
こうして、ただ一方的にいいようにやられたりはしないものの、不利そのものを覆せるわけじゃなかった。一人が転倒して大きな隙ができても、もう一人が逆に侑にできた隙を突いてくる。
背後から組み付いて、膝蹴りを侑の腰や太腿に叩き込んできた。格闘技における技のような洗練された印象はないが、それこそ素人がなんとなくで繰り出す<技のようなもの>でしかないという印象ではあるが、素の身体能力が高いから、威力は人間(地球人)の格闘家のそれに勝るとも劣らないだろう。そもそも、人間(地球人)だと組み付かれただけで動けなくなってしまうだろうな。
「ガッ! ギッ!」
これには侑も声を上げてしまった。




