凛編 娘の家庭の問題
そうだ。俺は、<凛の群れ>については、
<当事者>
じゃない。<血の繋がった肉親>である以上はまったくの無関係ではないにしても、実際に彼女らと生活を共にしてるわけじゃないしな。
まあこれは、
<娘の家庭の問題>
って感じの話だろう。親としては気にかかるのは<情>の面では当然だとしても、だからって直接干渉するのは余計なお世話以外の何ものでもないだろ。自分の子供の存在をちゃんと認めてるとは言えない気がするんだよ。
凛は俺の下を巣立ってしっかりと自分の人生を自分の力で生きてるんだ。それに過剰に干渉するとか、『蔑ろにしてる』以外のなんだって言うんだ。
そんな俺の思考などまるで関係なく、それまで不穏な気配を漂わせつつも目立った動きを見せてこなかった若い雄達が、遂に行動を開始した。
凛や侑や朗の出方を窺っていたのに加え、雄同士でも互いに牽制し合っていたんだろうな。どちらもボスの座を狙っていたんだろうから当然と言えば当然か。しかし、まずは侑をボスの座から引きずり下ろした上で改めて自分達の間で決着をつける算段でも整ったか。
それがどうあれ、とにかく状況が動いたのは間違いなかった。
狩りに向かう途中だというのに、侑の前に立ちはだかった雄達は、
「グウッッ!!」
「グルウッッ!!」
唸りながら牙を剥き、あからさまな敵意を見せる。
まあ、彼らにしてみれば<敵対行動>じゃなく、ごく当たり前の本能に従った自然なそれなんだろうけどな。
実際、これがなきゃ、
<健全なボスの交代劇>
も発生しないんだろうし。
人間のように<話し合い>や<選挙>はできない。彼らが相手をするのも<話が通じない獣>だからな。獲物も、獲物を奪い合うことになる相手も。
だからこそ必要なのは一にも二にも<力>だ。力を示さなければ仲間はまとめられない。
『現在のボスに勝つ』
というのは、なるほど力を示すには絶好のシチュエーションだろうさ。
まあ、凛の場合は、
『先代のボスに打ち勝ってその座を射止めた』
わけじゃなく、たまたまそうなってしまっただけでしかないからなあ。
そんな風になんとなくで出来上がってしまった群れだからこそ、凛がそれなりに力を示していれば成り立ってしまっていた。
だからこそ、若い雄達にとっても簡単に加わることができた群れだった。
他の群れの場合、<試験>というわけではないにせよ、それなりに力を示さないと合流させてもらえなかったりするらしいからな。
これも当然か。<足手まとい>を群れに加えるわけにはいかないとなれば。




