凛編 自分は自分だ
人間でもそうだが、<親>と<子供>は、
<別の個体>
だ。いくら血が繋がってようが、遺伝子を受け継いでようが、子供は親のクローンじゃないし、コピーでもない。
シモーヌ達がオリジナルと同じように振る舞えるのは、まさに<コピー>そのものだからだ。しかも、体が透明なことを除けば、ミクロな部分すら寸分違わず再現された超精密なコピーなんだ。当人が、
『自分は<本人>だ!』
と強く主張すればそれを否定できる根拠は皆無に等しいくらいに。
いくら『体が透明だ』と言ったところで、そもそもコピーである時点で、
<別の体>
を持って再現されてるわけだから、
<オリジナルとの同一性・連続性>
は失われてるんだよ。
それでも、本人が『本人だ!』と思えばまかり通ってしまう程度には<同じもの>だろうな。
そもそも生きている以上、人間は、
『昨日の自分と完璧に同じ』
わけじゃない。新陳代謝によって常時、更新されてるわけで。ミクロの視点で見ればあちこち違ってるはずなんだよ。
そして、オリジナルのシモーヌとここにいるシモーヌとは、遺伝子検査でも<本人>と出てしまう。となれば、当人が『本人だ!』と言い張れば認めるしかないんだ。
あくまでシモーヌや久利生やシオやレックスやルイーゼは、
『客観的事実としてコピーである』
と受け入れて、
<オリジナルと同一の記憶と人格を有した別人>
として生きることを選択できたというだけでしかない。
『由来がどうあろうと自分は自分だ』
と考えられるゆえのものだな。
だからこそ、アラニーズとして顕現したビアンカや、クロコディアとして顕現したメイガスも、『自分は自分だ』と考えられるようになったんだろうし。
もっとも、そこに至るまでには相当な葛藤があったんだろう。それも当然だ。さりとて、葛藤してもなお結果的に『自分は自分だ』と開き直れるというのは、強いと思う。
でもまあ、そもそもそういうメンタリティを有してる人間でないと、
<惑星探査チームの一員>
になんて選出してもらえないんだろうけどな。
何があるか分からない。何が起こるか分からない。極端な話、
『命さえ残れば、持って行ったものすべて捨ててもいい。生きて情報だけ持ち帰ればいい』
みたいな任務らしいからな。俺がやってた<惑星ハンター>もそういう仕事だが。
とは言え、シモーヌ達のそれは、まさしく宇宙開拓黎明期のものだから、危険度も俺がやってた頃とは桁が違うだろう。
それに挑むんだから、生半可な覚悟じゃなかったはずだ。




