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凛編　他者に損害を与える行為

『自分の思う＜価値＞こそが正しい』

と考えること自体は、別に責められるようなものじゃないと俺は思う。内心で思っているだけなら他の誰にもそれをとやかく言う権利はないさ。

でもな、そんな＜自分の価値観＞こそが正しいとして他の誰かに押し付けようとするから軋轢が生まれるんだよ。

『皆が楽しんでる場で水を差すような言動をとる』

なんて真似をしたらなにを招くのか、考えたことはないか？　考えることもできないか？　ましてやその場所に粘着してしつこく水を差し続ければ、素直に楽しめなくなった者達はそこには集まらなくなって、結果、過疎化してしまう。

なんてことが実際に何度もあったはずだよな。

『自分はそれに没入できない。楽しめない』

のは確かに残念なことだろう。でもな、＜楽しめない自分＞なんてのは、他人には何の関係もないことなんだよ。楽しめる者は楽しめる。どんなものでもそうだ。お祭りでもスポーツでも芸能でも、楽しめる者には楽しめるし、そうじゃない者はそうじゃない。

それだけの話だ。

他人がそれを楽しめてるからといって、

『楽しめない自分と同じように考えろ』

『そんなものを楽しめるのはおかしい』

とか、なんの権利があってそんなことを言ってる？　ましてや他人が主催している場で水を差すような真似をすることが疎まれないとなぜ思える？　そんなに自分だけが正しいと思いたいのか？

『自分には楽しめなかった』

なら、それでいいじゃないか。切り替えて他に楽しめるものを探せば済む話だ。楽しんでる人間に冷や水を掛ける必要なんかあるわけがないだろう？

まあ、その＜楽しみ＞が法に触れるようなものでない限りは。

だから俺は、ここ朋群(ほうむ)にできるであろう人間社会においては、

＜自分の価値観を他者に押し付ける必要＞

がないようにしたいと思ってる。最初から誰もが自らの存在を蔑ろにされないことによって、

『他者の価値観を否定してでも自分を認めさせたい』

なんてことをせずにいられないような状態にしないようにしたいんだ。

だから、凛(りん)達の在り方も否定はしない。＜野生のレオン＞じゃない俺の価値観を彼女達に押し付けて否定するようなことはしたくないんだよ。

こちらに何らかの被害が生じるような事態に陥ればそれについては対処もするにしても、そうじゃない時点でこちらから干渉はしない。

そんなのは、

＜他者に損害を与える行為＞

以外の何ものでもないからな。

『生きるために他の命を奪う』

のは避けられなくても、別にそこまでじゃないことでわざわざ軋轢を生む必要がどこにあるってんだか。