凛編 仲良しグループ
改めて言うが、
『野生の獣の群れは、仲良しグループじゃない』
のは事実だと思う。だからこそ、ボスには群れをまとめるだけの<力量>が求められる。
実は、凛の実兄である走と凱も、もうとっくにピークを過ぎて衰えを実感させられる状態になってるんだ。
しかし、走と凱の場合は、互いに互いの衰えを補い合うことで、実質的なボスの役割を今も果たしている。若い雄が挑んできても、息の合ったコンビネーションを見せて退ける。
これを<卑怯>と称する人間もいるかもしれないが、いや、十中八九いるだろうが、<卑怯という概念>そのものも人間が勝手に作り出しただけのものだからな。野生を生きる存在にそんな理屈は通じない。
<走と凱の二人がボス>
という群れを形成している以上は、これがこの群れの在り方なんだよ。しかも、
『それで誰が困ってるのか?』
と言えば誰も困っていないわけで。走と凱が二人して一人の雄に敵わなくなれば、その時はさすがに<潮時>だろう。
だが、その潮時を迎えたのは、二人の妹である凛の方が先だったようだ。
あの日の翌日、再び狩りに出たのを最後に、凛は狩りには出なくなった。翌日の狩りでは見事に彼女が獲物を仕留めてみせたものの、自身の衰えを実感したのか、さらにその翌日から巣に残って子供達(凛の孫達)の面倒を見るようになったんだ。
まあ、『面倒を見る』と言うか、
『自分は横になったままじゃれつかせて遊ばせるだけ』
と言った方が正確かな。孫達も、喜んで<お祖母ちゃん>にじゃれついている。それを凛は、ゴロゴロしながら時折、軽くはたいたり突飛ばしたりして相手していた。
人間(地球人)の場合だといささか乱暴にも思える接し方であるものの、地球人の子供よりもはるかに身体能力が高く頑強な肉体を持つ<レオンの子供>にとってはまったく問題にはならず、むしろ、
「キャア♡ キャア♡」
とはしゃいでいるくらいだ。『遊んでもらってる』感覚なんだろう。
<違う生物>
であれば、前提条件がまったく違ってくる。<人間(地球人)の感覚>こそが絶対ってわけじゃない。
人間(地球人)の場合は、
『強くて優れた個体さえ生き残ればいい』
というわけじゃなかった。なにしろその、
『<強くて優れた個体>というのをどう解釈するのか?』
がそもそも『人によって違ってくる』からな。<完全に一致した見解>なんてものが存在しないってのは、地球人類の歴史を振り返るだけでも分かってしまう。
『自分の考える価値こそが正しい』
だとか、<ただの妄想>でしかないんだよ。




