凛編 納得が必要
まあとにかく、枚の遺体を預かったアンデルセンは、ドーベルマンMPMらと共に彼女の体を丁重に墓穴に収めて、土を被せていった。
心停止が確認されてからすでに六時間以上が経過しており、しかもアンデルセンが直接彼女の体に触れて詳細に確認したところ、不可逆的な変化を示すデータが検出され、蘇生の可能性はすでにないと判断。埋葬を行ったんだ。
人間の場合は、<科学的なデータ>を示されただけでは納得できない部分もあるからな。それもあって<二十四時間>という猶予が設定されているものの、ここで再現できた技術で検証するだけでも本来なら数時間あれば<蘇生の可能性の有無>は十分に検証できるんだ。
なにより、凱が枚の遺体を連れてきた時点で<彼なりの踏ん切り>と言うか、
<枚との別れ>
は終えてるわけで、それ以降は蛇足になってしまうだろう。
だから完全に埋葬してしまう。丁寧に、労りを込めて。
と言っても、実際に作業をしているのはロボットだから、本当に<労りの気持ち>があるわけじゃない。あくまでも、枚を労わりたい俺の気持ちを再現してくれているだけだ。それができるだけの性能はあるということだな。
その様子を俺もタブレット越しに見守り、凱と添い遂げてくれた枚に、
「ありがとうな。お疲れ様」
と、実際には意味はないものの言葉を掛ける。
ロボットに<労り>を再現させたり、こうして届くはずのない言葉を掛けたりするのは、言ってしまえばただの<無駄>だが、その無駄こそがこれからも生きていく人間の側には必要なんだってつくづく思うよ。
亡くなった当人にはそれこそ関係ないことだとしてもな。
野生の動物の中にも、自身の仲間などが死ねばそれを悼む気持ちを見せるものもいたりはするものの、そういうのはあくまで少数派だというのも現実だ。ほとんどの場合は死ねばその場に放置され、他の生き物の糧になるだけだが、それでなにか問題があるかと言えば別に何もない。それで苦情を口にする者もいない。つまり本来ならばそれで構わないはずなんだ。
しかし、<心の生き物>である人間にとってはそれだけじゃ済まない。心を守るためには<納得>が必要で、その納得を得るために様々な儀式や手順を経るわけだ。
かつては俺もそういうのを無駄だと感じていたものの、密や刃や伏や鷹を喪った時にはそこまで割り切れなかった。儀式や手順を経ることで自身を納得させていったんだ。だから今じゃ、
『そういうのも必要なんだな』
と思えてるよ。




