閑話休題 ルコアの日常 その9
<オリジナルのルコア・ルバーン・ドルセント>
が備えていた素養については、
<不定形生物由来のサーペンティアンとしてのルコア>
もしっかりと備えていた。
とは言え、サーペンティアンとして顕現したばかりの頃は、その事実を受け止めるには彼女はまだ幼すぎて、一からの<育て直し>が必要になった。だからこそビアンカと久利生が母親や父親としてそれを受け持った。
そういう意味でも、ビアンカと久利生はルコアの<両親>なのだ。
しかし今ではもう、ルコア自身も<大人の仲間入り>を果たしている。これにより、元々彼女が備えていた素養や資質もしっかりと開花。<ビクキアテグ村の一員>としての務めを果たせるようになったのである。
そして今度は、ルコアが未来を育てていく立場になった。未来の両親はあくまでビアンカと久利生ではあるものの、ルコアもわずかではあっても<先達>であり、<オリジナルのルコア・ルバーン・ドルセントとしての経験>も合わせればそれこそ十数歳年上となる。
ならば、まだ実年齢では六歳になったばかりの彼とまったく同じではいられない。その事実も自覚しているからこそ、彼女は<姉>というよりももはや<母親>に近い接し方ができていた。
こうして畑での仕事をこなすと、そこに、
「お昼が用意できました」
と声を掛けてくる者がいた。
「はい」
振り向いた彼女の視線の先にいたのは、一体のロボット。
<モニカ>
だった。ビアンカと共にルコアの母親役を担ってくれていた<アリス・シリーズ>の一体である。今では彼女の自宅の家事全般も受け持ってくれている。
<ビアンカと久利生の自宅>
と合わせてだが、ロボットであるモニカにとってはさほど負担になるようなことでもなかった。元よりそれが可能なロボットとして作られたのだから当然ではある。それどころか、ビクキアテグ村に自宅を持つ住人全員のサポートもモニカの役目だった。
その事実をわきまえているルコアは、
「ありがとう、モニカ」
心を持たないロボットでありあくまで<人間の道具>でしかないはずのモニカに対してさえ、感謝の気持ちを表して見せた。するとモニカも、
「いえ、これが私の役目ですから」
とは告げつつも、人間の少女の意匠を取り入れたデザインの頭部を傾げて、少しばかりの愛嬌を見せた。実際には表情を作れる構造にはなっていないものの、不思議と笑顔のようにも感じられるものだった。それが見る者の気持ちを和ませる。
だからこそルコアも自然とモニカを労うことができたのだった。




