閑話休題 ルコアの日常 その6
『ちょっとでも早くルコアの顔見たかったから』
未来にそう言われて、
「もう……」
軽く唇を尖らせながらもルコアはまんざらでもなさそうに微笑んだ。
確かにノックもなしにドアを開けられたのはいい気はしなかった。それこそ着替えている時にでも開けられたら、悲鳴の一つでも上げてしまうかもしれない。
ただ、相手はそれこそ赤ん坊の時からすぐ身近に接してきた弟のような存在。一緒にお風呂にだって入ったこともある。透明な体さえ隠さず見せてきた。だから今さら恥ずかしがる必要も、ないと言えばないだろう。
実際、多少の恥ずかしさはあるものの、まったく見ず知らずの赤の他人に見られることを想えばそこまでではないとルコア自身も思っている。
いるものの、同時に、自分以外の、それこそ<家族同然に育ってきたわけでもない他人>に対してもノックもなしにいきなりドアを開けるようなことをするようになっては困るので、敢えて、
『ドアを開ける時にはノックをするように促すために言っている』
というのもあった。
だから今ではルコアも、ドアを開ける時にはノックをするようにしている。たとえドアの向こうにいるのがビアンカや久利生だと分かっていても。
自らそれを実践しつつ、言葉でも未来に伝えるようにしているのだ。
とは言え、彼女もかつては<家族の気安さ>から、ノックもなしでドアを開けたりもしていた。それで何度か着替えている最中に開けてしまったこともある。
姉のような母親のようなビアンカに対してはともかく、義理の父親役だった久利生の着替えを見てしまった時にはさすがに気まずい思いもした。
加えて、未来がトイレに入っている時に開けてしまったことも。
これまた、彼が三歳くらいの時の話なので、当の未来自身も気にしてはいなかったが、ルコアとしては、
『悪いことをした』
と感じて、それからは気を付けるようになった経緯がある。
だから、今すぐちゃんとノックするようになってもらおうとまでは思っていないものの、
<ドアを開ける時にはノックをするものだという認識>
を持ってもらうには必要なことだとも考えている。これを何度も積み重ねることでいずれはと考えているのだ。
これもいわば<躾の一環>かもしれないが、だからといって一朝一夕で身に付くものでもないと彼女もわきまえていた。わきまえているからこそ、強く叱責することまではしない。今はまだ<ドアを開ける時にはノックをするものだという認識を作る時期>だと考えているからだ。




