ホビットMk-Ⅱ編 手探り状態
実は、キャサリンがなぜ、十六号機と他のドーベルマンMPMとを区別できているのか、その理由はまだ判明していない。
いないが、まあそれは些末な問題だろう。
『彼女にとっては十六号機がいい』
というだけで、それで困ることはないし。
ただ、彼女がなにゆえ十六号機だけを気に入ってるのかその理由が判明していないということは、もし十六号機が破損してそれを修理したことで認識できなくなってしまう可能性もあると考えられるからな。だからあまり迂闊なことはできないかもしれない点は、いささか不安要素ではある。
幸い、今の時点では、単にメンテナンスを行っただけなら問題は生じていない。マニピュレータに不具合が生じて交換したことがあったが、それは大丈夫だった。
『本人であるか否かは、連続性の問題だ』
というのが地球人社会での一般的な解釈だから、故障する度にパーツを交換していっても、
『ベースが十六号機である限りは十六号機』
という認識が俺の中では成り立つものの、キャサリンもそう考えてくれるかどうかはさすがに保証の限りじゃないんだよな。
それでも、今のところキャサリンは十六号機を<相棒>として認識し、どこに行くにも伴ってくれている。おかげで俺も、母親であるビアンカも、安心できている。草原の生き物で十六号機をどうにかできるのは、<オオカミ竜の群れ>か<サイゾウ>くらいのものだ。ましてや武装した状態なら、およそ負ける要素がない。
これがホビットMk-Ⅱなら、武装していても、
『生身の地球人よりもちょっと強い』
程度でしかないから、正直、心許ないのは事実ではある。
でも、今のドーベルマンMPMは、もちろんエレクシアやメイフェアに比べれば玩具同然でも、アリスやドライツェンにさえ及ばなくても、生身の動物相手ならまず負けることはないくらいには改良されている。
けどなあ、十六号機も他のドーベルマンMPMがバージョンアップする度に同期化を計ればどこかでキャサリンが認識できなくなる可能性も否定しきれないという懸念もあるにはあるんだよなあ。
その一方で、生き物は常時、<代謝>という形で自らを更新し続けているにも拘らず同一性は保たれてるから、こまめにバージョンアップを行えば逆に大丈夫かもしれないか。
いきなり大きな変更を行うことで、
『誰だお前は!?』
って感じになるんだろうし。
と思う。
これについても現時点ではなんの保証もない話だけどな。
この辺りはとにかく手探り状態だな。




