ホビットMk-Ⅱ編 人間の能力
そんなわけで、按と伍号機については、いつも通りに穏やかな様子だったのが確認できて、次は、
『キャサリンとドーベルマンMPM十六号機』
の方に映像を切り替える。
すると、草原の真ん中でガゼル竜に襲い掛かる彼女の姿が映し出された。
現在、四歳と六ヶ月の彼女は、もうすっかり母親であるビアンカと大差ない姿にまで成長していた。しかも、<服>を着ている。
いつの間にか自分で着るようになったんだよ。彼女のために用意した<家>に備えておいた服をな。たぶん、<母親>の真似をしたんだろう。
ちなみに、イザベラやケインも同じく服を着るようになっている。数ヶ月ばかり時期はずれていたものの、別に着せようとこちらから働きかけなくても自然とそうなっていったんだ。
そして、口数は少ないとはいえ、<人間の言葉>を話すようにもなっている。
なんだかんだと心配もないわけじゃなかったが、<人間>として生きるようになっていってくれてるんだよ。その事実にホッとする。そんなわけでやっぱり<アラニーズ>は蛮達<ヒト蜘蛛>とは別の種なんだというのがこれで分かる。ヒト蜘蛛には残念ながら言葉を理解できるだけの知能がないのは確かだからな。
<人間そっくりの部分の頭>
に備わった<脳>の大きさは人間のそれと変わらないんだが、<機能>の点では完全に違ってしまっているんだ。言語野が極めて未発達で、代わりに運動野が非常に活発に活動してるのも確認できている。加えて、前頭葉にあたる部分の活動も極めて限定的だ。
つまり、人間的な振る舞いをするための部分を徹底的に切り捨て、その特殊な構造の肉体を、<攻撃力>に特化させて成立させている感じか。
ゆえに、<人間らしさ>など欠片も備えておらず、それこそ昆虫同然の冷淡なメンタリティしか持ち合わせていないのがヒト蜘蛛という種だ。
対してアラニーズは、見た目こそヒト蜘蛛と区別がつかなくても、あくまでも人間なんだよ。
だから、単純な身体能力を基にした攻撃力という点では、ヒト蜘蛛に分があるかもしれない。しかし、アラニーズは人間であるがゆえに<知能>や<知恵>でその不利を補うことができるだろう。
例えば、もし、蛮とビアンカが戦ったとすれば、ヒト蜘蛛としても抜きん出た身体能力を持つ蛮が優位に思えてしまう。
が、ビアンカは徹底した訓練と実戦を潜り抜けてきた<軍人>としてのスキルを持っている。そんな彼女が武器を手にすれば、蛮は敵じゃないだろうな。
これは、
<卑怯>
じゃないぞ。
『武器を自在に操れる』
こと自体が、<人間の能力>だからな。




