ホビットMk-Ⅱ編 無謀な冒険
だが、密林にいるのは、<植物>だけじゃない。当然、<獣>もいる。そして<獣人>も。
ホビットMk-Ⅱのカメラが捉えた映像の端で何かが動くのが俺にも見えた。その部分を拡大し、画像処理を加えて表示させる。と、
「クワガタ人間、か……?」
硬質な印象のある茶色い肌。そして何より特徴的な頭部の<角>が確認できたことで、俺はそう呟いていた。
<ルカニディア>
マンティアンとは近縁の種、と言うよりは、そもそもマンティアンの方がルカニディアから枝分かれして生まれた種であることが、遺伝子解析から判明してる存在だ。
それが、明らかに警戒してる様子でこちらを、<ホビットMk-Ⅱ>を窺ってるのが分かる。
まあ向こうにしてみれば、
<何やら得体の知れない獣>
が現れたわけだからな。警戒するのが当然だ。
ルカニディアは、遺伝子的にはマンティアンに非常に近い種ではあるものの、マンティアンほどは<攻撃的>でもない。雑食ではありつつ、普段は主に果実や木の実を食する、習性的にはむしろパパニアンに近い者達だな。
それでいて、危険を感じ、他に手段がないとなれば容赦なく攻撃を仕掛けてくる面も持ち合わせてる。そしてそれが実行できるだけの身体能力もある。
<天然の鎧>とも言うべき頑強な肌はマンティアンとほぼ同等で、捕食者ではないものの、その身体能力だけなら密林における最強格の一つなのは間違いない。
あくまで、
『攻撃性がそこまで高くない』
というだけだ。
ただ、実際にマンティアンと戦えば、十中八九マンティアンが勝つだろうなと予測している。非常に攻撃的な性格と、だからこそ獲得してきた多彩な攻撃方法を持つマンティアンに比べ、ルカニディアのそれはどちらかと言えば<防衛>主体の能力なわけで。
もっとも、実際に戦うようなことはないだろうけどな。生息域が百キロ単位で離れてるし、マンティアンもルカニディアも、そこまでの距離を移動するような習性は持ち合わせていない。
せいぜい数十キロと言ったところか。しかも、基本的に密林から出ることもしない。そして、例の<不定形生物>が生息する河などには近付かない。だから、密林が途切れて荒れ地になっていたり、河がいくつも流れていて、物理的な距離以上の隔たりがあるんだ。
マンティアンやルカニディアにとっては。
そもそも、そこまで移動しなくても、生きていくには問題ない豊かな密林だしな。わざわざ無謀な冒険をして何があるかも分からない遠くを目指す必要もないさ。




