閑話休題 錬慈の日常 その7
いずれにせよ錬慈は、＜わんぱく＞ではあるが本質的にはとても穏やかな気性の子供に育っていた。
他者に対して攻撃的ではなく、快活ではあっても利己的でもない。かと言って極端に利他的であったりもしない。自分の気持ちは正直に口にしつつも、それが通らなくてもいきなりキレたりもしない。
ただただ朗らかなのだ。しかも、知性と理性を感じさせる朗らかさだった。
人間として人間社会を生きていく上でもっとも好ましい在り方を、連是とシモーヌは我が子に対して＜手本＞として自らの振る舞いそのもので示してくれていた。だからこそ、錬慈はそれ以外の接し方を知らないのだ。
これは、萌花も同じである。彼女の母親である光が連是から示された手本をそのまま学び取り実践していたからだ。加えて、血縁上の祖父である連是や、祖母代わりのシモーヌも、当然のごとく手本を示してきた。
その一方で、パパニアンという種の生来の気質もあり、萌花は錬慈に比べてやや激しい気性を持っている傾向はある。
あるが、だからといって家族や仲間に対して攻撃的というわけでもない。そもそも攻撃的でいる理由がない。
何しろ彼女には、周りから愛されている、自分の存在が許されている、そういう明確な実感があるのだから。
確かに自分を愛してくれている相手をなぜ攻撃しなければならないのか。
それだけの話だ。
そしてこれは、錬慈も同じ。
『攻撃的でいなければいけない理由がない』
たったそれだけのことで、人間は穏やかでいられるのだ。
なるほどこの世には嫌なことつらいことが無数にあって、自分を害そうとする人間だっていたりするだろう。しかしそれは本当に相手からの一方的なものだけなのだろうか？
自らが相手の攻撃性を励起する原因を作っていたりしないだろうか？ 赤ん坊を相手にキレるのは確かに＜甘え＞でしかないが、それなりに意図をもって他者と関わることができる年齢になってからの場合は、自身の言動が他者を不快にさせ、そこが起点になって攻撃的に振る舞われたりすることもあったりするのではないか？
もちろん、どんな理由があろうと法に触れるような行為については、それを行った側に責任がある。許されるようなものではない。だが、法に触れるとは言い難い範囲でのあれこれであれば、禁止することもできないだろう。あくまで＜マナー＞などの範囲であろうから。
そういうものを招いてしまったりしていないか？
だから連是もシモーヌも、その原因となるような振る舞いそのものを避けるようにしていた。
錬慈も萌花も、そういう姿を見て育ったのだ。
ゆえに錬慈の日常は、楽しく穏やかなものであったのだった。
