丈編 矛盾がなくなったらそれがむしろ異常
ホビットサンク村で<集落の住人>を演じているホビットMk-Ⅱ達の普段の姿を見ていても、妙に人間臭い振る舞いをしてるのが見受けられる。
というのも、巣から落ちた鳥のヒナを保護して育てたり、花を育てたりしてるのも出てきたんだ。
人間はそういうホビットMk-Ⅱらの様子を見て、そこに<心>を感じてしまうだろうな。
だが何度も言うように、それは決して<心>じゃないんだ。ホビットサンク村のホビットMk-Ⅱ達は、
『人間を演じてる』
だけでしかない。それによってシミュレーションを行ってるんだ。ここで人間が生きていくために必要なものを探るのを目的としたシミュレーションをな。
だからって別に、
『人工的に作られたAIやロボットに心が生じることは決してない』
と言いたいわけじゃない。いつかもしかしたらそういうこともあったりするかもしれない。それか、地球人以外の知的生命体が作り出したAIやロボットには心を獲得した者もいたかもしれない。
でもな、現状の地球人社会製のAIやロボットにはそれはないんだよ。
確かに、
『<人間の思考>も所詮は電気信号でしかない』
と言われたりもしてるが、だが人間の思考ってのは単純な電気信号だけじゃないのは事実のはずだよな。
<脳内物質による化学反応>
が極小レベルで常に起こっていて、それらが<気分>とかいう形で現れたりするんだろう? いや、脳内だけじゃないな。何か心配事や悲しいことがあったりすると胸が詰まるような感覚があったりしないか? 頭が痛くなったり眩暈がしたりすることはないか? それも含めて、
<情動>
ってもんじゃないのか? そういう時、人間の体の中では電気信号だけが飛び交ってるのか? <ホルモン>と呼ばれる化学物質が複雑な化学反応を生じさせてたりするんじゃないのか?
対してAIやロボットのそれは、どれほど高度になっても今の時点ではあくまで、
『0か1か』
なんだよ。<スイッチのオンオフ>でしかない。それがとんでもない密度で行われてるから人間の感覚ではもはやピンとこないレベルになってるってだけで、
『オンでもオフでもない』
という状態は存在しないんだ。もしくは、
『他の部分のオンオフと矛盾するようなスイッチの挙動は成立しない』
と言えばいいのか。もしそんなことが起これば途端にAIやロボットは機能を失う。平たく言えば、
『壊れる』
だな。だが人間は、矛盾を抱えた状態が<本来の状態>なんだ。逆に、
『矛盾がなくなったらそれがむしろ異常』
なんだよ。




