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ローバー(さて、次の調査に行きますか)

(ひそか)(じん)との生活も馴染んできたことで、俺は再度調査を行うことを決めていた。もっとも、調査したところでその結果を伝える方法はないから意味がないと言えばそうなんだが、まあ余興っていう意味もあったりはするかな。


今回はローバーを使って近くの川に出て、川沿いを調査してみようと思う。


この宇宙船に搭載してあるローバーは、一時期流行った、地球製のレトロな自動車をモチーフにデザインされたというもので、『こいつをオマケにつけるから勘弁してくれ』とジャンク屋に泣きつかれてオマケにつけてもらったものである。もちろん今じゃ処分するにも逆に金を取られるレベルの中古品に過ぎないが、デザインの古ささえ気にしなければ十分に使える代物だった。


宇宙船のエレベーターを降ろし、ローバーを出す。


<ピンツガウアー>とかいう総輪駆動の車両がモチーフになっているというこいつは、六輪駆動なのはオリジナルと同じだがそれに加えて水陸両用車にもなっている、探索用ローバーとしては実にオーソドックスなものだった。


荷台の一部が居住スペースにもなっていて、物資さえ十分ならこれだけでも結構な長期間、調査に出ていられる優れものでもある。


しかし、俺が何をしようとしてるのか興味深そうに見ていた(ひそか)(じん)は、エレベーターからローバーが姿を現した途端、慌てて木の陰に隠れてしまった。まあ、野生動物から見れば巨大かつ異様なこれが恐ろしげなものに見えても当然か。


それの中から俺が現れて笑いながら手を振ると、この怪物のような<何か>も俺に従っているのだと理解したらしく、二人は恐る恐るではあるが近付いてきた。


そして、(ひそか)はローバーのバンパーを手で叩くとまた木の陰に隠れた。一撃をくれて自分の方が優位にあることを示そうとしたのかもしれない。


それが証拠に、攻撃されても反撃してこないということで序列を確認できたのか、それ以降は逆に興味深そうにボディーをバンバンと叩きながら覗き込んだり匂いを嗅いだりしていた。ただ、さすがに臭いはお気に召さなかったらしく、しかめっ面をして鼻を押さえたりもしていたが。


一方、(じん)はと言うと、ローバーの正面にある程度まで近付いたところで立ち止まり、じっと睨みつけている感じだった。これもたぶん、威嚇のつもりだろう。そうやって危険かどうかを確かめているんだろうな。


しばらくそんな感じで二人の様子を確かめながら俺は様子を窺っていた。いきなり乗せたりはしない。自分にとって危険がないということを彼女ら自身が納得してくれてからでないと無理に乗せたりしたらパニックを起こすかもしれないからな。


キャビンのドアを開けて中にも入れるようにすると、(ひそか)は持ち前の好奇心を発揮して早々に中にまで入ってしまった。そして、広さは比べものにならないが宇宙船の居住スペースと似たようなものだというのは理解したらしく、三十分もしないうちに中で寛ぎ始めたのだった。


ベッドにもなるシートで横になったり逆さになったり、その姿は完全にサルだな。


しかし(じん)はまだローバーとにらめっこ中である。どちらかと言えばやはり(じん)の方が本質的には臆病で慎重なのが分かるというものか。


だがそれもしばらく様子を見ているといつの間にかいなくなっていた。と思うと十五分ほどで帰ってきて、シャワーを浴びていた。狩りに行ってたんだろうな。


その後は(ひそか)と同じように中を覗き込んできて、ちゃっかりシートに座って落ち着いていた。


まあなんにせよある程度は慣れたみたいだし、今度は走らせてみるか。


「それじゃ、今日はローバーの点検も兼ねて川にまで行ってみるとしますかね」


俺が運転席に座るとエレクシアも助手席に乗り込み、(ひそか)(じん)がキャビン内で寛いでいるのを確認した上で、俺はアクセルを踏み込んだ。


「あひゃっ!」


っという声が後ろから聞こえてくる。


「さすがに少し驚いたようですね。でも、問題はなさそうです」


キャビンの方を振り返ったエレクシアが様子を伝えてくる。ローバーが動き出したことに驚いた(ひそか)がせわしなく動き回っている気配も伝わってくる。


「逆に(じん)は緊張していますね。全く動こうとしません」


シートにちょこんと座って固まっている(じん)の姿が想像されて、俺はちょっと唇が吊り上がってしまった。


辛うじて通れるところを選んで進むが、道なんて基本的に無い。細い木はバンパーで押し倒して道を作る。地面は木の根などが絡み合って凹凸がひどい。デザインの基になったピンツガウアーと違って車輪にモーターが内蔵されて六輪が完全に独立して動くこのローバーは、振動を吸収しなるべく車体を水平に保つ機能もあるものの、ここまでくるとやはり多少は揺れる。


それでも必要とされる踏破力は備えているからな。這うようなゆっくりとしたスピードではあったが、目的の川にまで特に問題もなく辿り着いたのだった。



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