新たな人生(同姓同名ってことでいいじゃないか)
シモーヌからもたらされた情報は、正直、俺の手には余るという印象すらあった。
あの不定形生物に関するまさかの展開に、頭がくらくらしそうだ。
しかし同時に、彼女の話が本当だとしたら、コーネリアス号の乗員達の一部は、直接は顔を合わせたりできないとは言え不定形生物の中で生きているということにもなる訳で、そういう意味では喜ばしい話なのかもしれない。
もっとも、それが本当に『生きている』と言えるのであればだが。
俺が知る限り現在の法律は、そんな事態を想定していないと思う。だから、現状ではやはり死亡扱いになるんだろうな。ただ、俺達と一緒に暮らしている秋嶋シモーヌ(のコピー)については本人をあまりにも忠実に再現していて、少なくともそのレベルの情報があの中にはあるということには違いないんだろう。
「こんな荒唐無稽な話、信じられないですよね」
そう言って苦笑いを浮かべる彼女に、俺は、
「いや、信じるよ。シモーヌがそんな意味の分からない嘘や空想話を俺にする理由がないし。実際の事例もこうやって目の当たりにしてるんだ。だったらそういうことなんだろうなと思った方が筋が通る気がする」
と応えさせてもらった。そんな俺に、彼女も、
「出逢えたのがあなたでよかった」
と言ってくれた。
でもそうなると、彼女はやっぱり本当の意味での秋嶋シモーヌではないということになってしまうのかな。
が、以前にも言ったとおり、オリジナルの彼女を知らない俺にとっては、今こうして俺達と一緒に暮らしてる彼女こそが<秋嶋シモーヌ>なんだ。それでいいと思う。
だから言わせてもらった。
「君がオリジナルかどうかは俺には関係ない。俺にしてみれば君が秋嶋シモーヌであったとして何の問題もない。むしろ、俺にとっては君が秋嶋シモーヌだよ」
ってね。
「…ありがとう…ございます……」
彼女はそう言って灯を胸に抱きながら顔を伏せた。肩が震えている。泣いているんだろう。
こうして改めて、彼女も<秋嶋シモーヌ>として新たに人生を送ることになった。まあ、同姓同名みたいなものだと考えればいいんじゃないかな。
それに、彼女は灯の母親ってことでやっていくことになるんだし、それでいいと思う。
こうしてシモーヌと灯が母子になり日々が過ぎる中、凱と旋の子が生まれたのが確認された。俺の<孫>だ。たぶん、初孫ということになる。
ドローンに映し出される、赤ん坊二人におっぱいをあげている旋の姿。
俺はさっそくその赤ん坊に、円と妍と名付けた。
「可愛いですね…!」
セシリアやメイフェアと一緒にコーネリアス号に向かったシモーヌが、少し離れたところからその様子を見てそんな感じで静かに興奮していた。
そんなシモーヌをタブレットの画面越しに見守ってる俺の腕には、ミルクを飲む灯。
シモーヌがコーネリアス号に帰ってる間は俺が世話をすることになっている。光の時にもやったことだしエレクシアもいるから心配はいらない。