驚天動地(とはこのことか?)
シモーヌは、自分の頭によみがえってきた記憶を、灯を胸に抱き穏やかに視線を向けながら静かに語りだした。
「あれは…あの不定形生物は、私達を<食べた>んじゃないんです……私達を取り込んだ、いえ、<同化した>と言った方が適切かもしれません。あれにとっては、動物を捕らえ取り込むことは<捕食>じゃありませんでした……」
そして顔を上げ俺を真っ直ぐ見詰めて言った。
「私達は、今も生きています。あの不定形生物の中で……」
「な…? あ…あ…?」
どう応えていいのか分からずに言葉にさえならない俺にシモーヌは続けた。
「あの不定形生物についての詳細は、同化していた私達にもはっきりしたことは分かりません。私達もあの中でいろいろと調べようとはしたんですが、やはり、手持ちの知識と意識とだけでは、できることといえば考察することくらいでしたから。
そして私達が立てた仮説は、『この不定形生物は、ありとあらゆる生物のデータをただ無制限に取り込み保存することだけが目的である』という、普通なら荒唐無稽と笑われるようなものでした。でも、そう考えるしかなかったんです。何故ならそこには、取り込まれた生物のデータが溢れそれらすべてが完全に機能し、ある種の生態系を作り上げていたんですから。
いえ、生態系どころではありませんね。あの中は、それ自体が一つの<世界>なんです」
「……」
「その<世界>の中で、私達は生きていました。食べなくても死なないことは確認されていましたが、ちゃんと生物的な生理現象もあり、空腹も感じたんです。
でも、あの中には様々な生き物が溢れていて、食べるものには困りませんでした。文明の利器と言えるものはなかったので非常に原始的な生活様式ではありましたが、これといって不自由もなかったと思います。
そして私は、赤ちゃんを産んだんです。その子の名前は、瑠衣といいます。彼が名付けてくれました。
瑠衣もすくすくと育って元気です」
微笑みながらそこまで話したところで、今度はフッと寂しそうな表情になった。
「でも、だからこそ分かってしまいました。私は、秋嶋シモーヌ本人ではありません。彼女の正確なコピーなんです。<秋嶋シモーヌ本人>は、今もあの不定形生物の中にいます。彼や瑠衣と一緒に……」
「……」
……その時のシモーヌの話を、俺がすぐに信じられたかと言われればそうじゃなかったと思う。たぶん、彼女の言ったことをどう言えば否定できるのかということを頭に巡らせていたと思う。だが、俺にはその答えを見付けることはできなかった。
彼女の話を否定できる理屈が見付けられなかったんだ。