表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/2929

母乳(せっかく出るんだから利用しないとな)

出産そのものは、(よう)が経産婦だったこともあってか実に呆気なく終わった。二時間と掛からなかった。だが、生まれた赤ん坊は、やはり羽が生える形跡がまったく見られなかったどころかやはり手も足も人間のそれだった。だから、(しょう)のように母親の体にしっかりと掴まることさえできなかった。


タカ人間(タカ)の赤ん坊は、人間の常識から見れば明らかな未熟児として生まれる。妊娠期間を短くし、その小さな体でも出産の負担を軽くするためにそういう風に生まれるのだろうが、その分、母親のおっぱいにまるで一体化するかのようにしがみついて常に乳を飲み、一気に成長する。


なのに、生まれた赤ん坊はそれができなかった。本能で母親の体にしがみつこうとするものの、手足の構造が人間のそれである為、しっかりとしがみつくことができなかった。だからか、(よう)の方も、殺そうとまではしなかったが早々に赤ん坊に見向きもしなくなってしまった。育児放棄だ。彼女にできる育て方で育つ可能性のない赤ん坊は見捨てるしかない。これもまた<自然の掟>というものだろう。


しかしそれは十分に想定されていた事態だ。人間はそう簡単に諦めることができない。(よう)には育てられないかもしれないが、俺達ならそれができる可能性もある。諦めるのは、それを試してからでも遅くない。


メイトギアには、未熟児を保護し介護する為のデータもあらかじめインストールされている。通常はあまり使われることのないものだが、もしもの時に備えたものらしい。


赤ん坊はセシリアが保護し、機体温度を上げて温め、あらかじめ(よう)から搾乳していた母乳を、口に咥えたチューブによって与えた。人間としてみれば未熟児に思えても、既に自発呼吸は完全だし、口に含むことさえできれば自力で乳を飲む力もある。ただ上手く母親にしがみつくことができないだけだ。だから余計に諦めきれない。


「バイタルサインは、(しょう)様の時のものと比べても大きく差異はありません。非常に健康体だと思われます。授乳も成功しました」


セシリアの語るそれに、俺もシモーヌもホッとしていた。


先に話していた通り、この子はシモーヌに育ててもらうことになるだろう。ただ、さすがに今の状態では人間のシモーヌにとっては勝手が違いすぎるので、ある程度の大きさになるまではセシリアに育ててもらうことになる。


彼女の口の中に(よう)から搾乳した母乳を蓄えた容器を入れ、それを、ポシェット状の小さなバッグに入れた赤ん坊にチューブを通じて与え続ける。幸い、(よう)の母乳は豊富に出てるので、(よう)本人としても搾乳してもらえるのは気持ちいいらしかったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ