距離感（まあ、一応は人間だからな）
ついつい考えすぎてしまうのは、俺の性分だ。だから他人から見ればむしろ苛々することもあるだろう。
だが、シモーヌも割とそういう面があるらしい。だから意外と気が合うのを感じていた。正直、そもそも種族が違う密や刃や伏や鷹よりもな。
それでもまあ、それ以上の関係になろうという気も不思議と湧いてこなかった。俺にとってはこの距離感が心地いいのかもしれない。元々人間関係があまり得意じゃなかったというのもあるからかもしれないが。
「そういう点ではマスターは本当に消極的ですね」
シモーヌが＜自分の家＞に帰った後、エレクシアが俺に声を掛けてきた。
「そうかもしれないが、でもお互いに今の距離感がちょうどいいと思ってるならそれでいいだろう？」
と俺も返す。
「確かにそれはあると思います。しかし、時間の経過と共に互いの認識が変化していくこともあるのが人間でしょう。五年後、十年後も今と同じであるという保証もありません」
「…お前の言うことも事実だな。だがそれはそうなった時に改めて考えればいいだろう。今から心配しててもな」
「マスターがそうおっしゃるのであれば私に異存はありません」
エレクシアがそんなことを言い出した理由は何となく分かっている。シモーヌが現れたことで、俺と彼女の関係をよりよいものにしたいと思っているのだ。密や刃や伏や鷹よりは人間に近い彼女の方が俺には適していると考えているのだろう。人間をサポートする為のロボットとして。
だからエレクシアには悪気はまったくない。俺のことを考えてくれてるが故の行動だ。後は俺がどう捉えるかというだけの話ではある。なので、俺としては当面、今の形を望んでいた。
悪いな、エレクシア……
なんてこともありつつ、俺達の生活はまた平穏に続いていた。そこに、突然、來が顔を出した。以前から時々、力と悠を訪ねてきていたから、今回もそれだろう。
するとシモーヌは、あまり近付きすぎないようにしながらも、
「あの時は、助けてくれてありがとう…！」
と礼を言っていた。來が他のワニ人間から自分を庇ってくれたことを言っているんだ。
あの時、來が何故シモーヌを庇ったのかはっきりした理由は分かっていないが、様子を見るかぎり、恐らく光と似通った姿をしたのがいたから取り敢えず庇ったんだろうなとは推測してる。光とは仲が良かったからな。
ちなみに、仲間の邪魔をした來がその後どうなったかと言えば別にどうもならず、普通に仲間達と一緒にいた。獲物の奪い合いはワニ人間にとっては普通のことなので、誰もそんなことは気にしないようだ。
