走と凱(立派なもんだ)
ローバーがゆっくりと動き出しても、走と凱はただそれを見送るだけで、追いかけようとする動きさえ見せなかった。もしここで追いかけようとするなら止まって乗せてもいいと思ってたんだが、どうやらそれは俺の方が子離れできてなかっただけのようだ。
あいつらはもう、自分の生きていく場所を選んだんだ。あとはしっかり生きてくれればいいと願うだけだ。
そして俺は、走が好きになったライオン人間の雌を、恵と名付けた。
「仲間を大切にしろよ……」
その後、走と凱がどうなったかと言うと、ボスを喪った群れのボスに走が治まることで新たに群れを率いていくことになったようだ。もちろんまだ若くて力も十分じゃないから頼りないボスではあるものの、他の雌もまだ若く、それに凱が右腕として力になってくれる形で盛り立ててくれてるらしい。
ちなみに、コーネリアス号の治療カプセルで治療していた三人については、前のボスとの子を生していた成体の雌だったが、五日後に回復してコーネリアス号から脱出、群れに合流したものの、しばらく群れを離れていたこととボスを喪ったことで立場が低くなり、それを盛り返そうとしてか気の強そうな一人が何度も食って掛かったりもしていた。体の大きさが違うから一見すると完全に大人が子供をイジメてるようにも見える。だから俺も何度も干渉しそうになってしまった。
しかし、それはやっぱり俺が子離れできてなかったという証拠でしかなかった。走も凱も、その程度のことで屈しなかったんだ。それどころか、二人に食って掛かってた雌は次々と走と凱の連携の前に返り討ちに遭うようになり、あえなく屈服。特に、翔の攻撃を散々受けてそれに慣らされてきた凱にとっては物の数じゃなかったらしい。
そんな訳で三人とも、大人しく走と凱に下ったようだ。
そうそう、それから、二人に食って掛かった特に気の強そうな雌と凱がカップルになったと思われる。何と言うか気の強いタイプが好みだったのかね。で、俺は凱とカップルになった雌を旋と名付けた。二人揃えば<凱旋>……
まあいい。
しかしこれで、翔は凱にフラれたってことかな? 元々兄妹なんだから別にそれでいいんだけどな。
「本当にあれで良かったんですか…?」
俺達のところに戻ってきてシモーヌが改めて俺に問い掛けてきた。彼女にしてみればやっぱりすぐには納得できないことだろう。それは分かる。だから彼女がそう思うことを批判するつもりもない。
「あいつらが決めたことだからな……」
そう応えたのは、シモーヌに対してというよりは俺自身に言い聞かせるものだったと思う。不安も心配ももちろんある。これであいつらにもしものことがあれば俺は一生、後悔するだろう。でも、こういうものなんだ。ここではな。
実際、さっきも言った通り、走も凱も何だかんだとよろしくやっていた。当然か、あいつらにとってはそれが普通なんだから。深もそうだし、俺の<孫>が生まれるのもそう遠いことじゃなさそうだなあ。
と思ってたら、この数ヶ月後、凱とカップルになった旋が妊娠したらしいことが分かったのだった。