生き方(ここではそれが普通なんだ)
コーネリアス号も、基本的にはAIによって多くの部分が制御されている。燃料電池と、交換用として残されていたソーラーパネルを改めて設置してある程度の電力を確保したことで一部の機能が回復したのだ。
ただし、この場合の<AI>とは、メイトギアのように人間に近い振る舞いをするロボットに与えられる種類のそれとは違って、あくまで補助的な、本当にロボットらしいロボットとしてのそれである。音声メッセージなども使うものの、メイトギアのようには喋ったりもしない。
それでも知能レベルなら人間に劣る訳でもないので、治療カプセル内のライオン人間達が回復したら勝手に外に出て行くように仕向けてもらうことにした。通路のシャッターを開け閉めすることで誘導するのだ。
あと、出入り口近くのモニターを外に向けて設置し直す。走に対して顔を見せて話し掛けられるようにする為だ。走は、どうやらコーネリアス号を自分の住処に決めたようだ。と言っても、コーネリアス号の中ではなく、船体の陰になっている部分を使うつもりらしいが。以前からそこで休んだりしていたのだ。
誉が行方不明になった時には取り乱してしまった俺だったが、誉、深、明、來の巣立ちを経て、覚悟も決まってきた気がする。
危険なのは確かでも、走はコーネリアス号の構造にも慣れているし、メイフェアやセシリアとリンクできるコーネリアス号のAIがあいつらをサポートしてくれるだろう。危険な時には中に逃げ込めばいい。ドローンも常時待機させる。
「本当にいいんですか…?」
さっきは俺の言ったことに黙ってしまったシモーヌも、やはり不安で仕方ないという感じで問い掛けてきた。
もちろん、いくら分かったようなことを言っていても、俺だって心配だ。だが同時に、何度も言うようにそれはあくまで人間の側の理屈でしかない。走はもう、この世界の住人としては既に立派にやっていけるくらいなんだ。その為にこうやってコーネリアス号に出向くたびに連れていってもらってこいつが生きていく環境に慣れさせてきた。何より、好きな雌もできた。だったらもう、本人が望むならそうさせてやるべきだと思う。と言うか、そうするべきだと自分自身に言い聞かせてるんだ。
……いや、違うな……そうじゃない。走と凱が世話になってる群れだからってオオカミ竜から助けようとしておいて、今さら自然も何もないもんだ。
分かってる。俺の言ってることなんて所詮は全てただの詭弁だ。こんな環境の中でそれでも人間として生きていかなきゃいけないのを説明付ける為に何とかこじつけようとしてでっち上げたものでしかない。でも、それでもなんだ……
「いいんだ……これがあいつらの生き方なんだから……」
俺の口からそんな言葉が漏れた時、ローバーの中から走のことを見詰めていた凱が、自分でローバーのドアを開けて飛び降りて、走のところへ駆けていった。
「凱様! 戻ってください!」
セシリアが呼びかけるが、視線を向けるだけで戻る気配を見せなかった。
そうか……お前も一緒にということなんだな。
見れば、走とあの雌と凱の姿の向こうに、何人かのライオン人間の姿があった。メイフェアの高感度カメラであれば、昼とそれほど変わらないくらいにはっきりと分かる。散り散りに逃げていたのが、また集まってきたのだろう。それが、走と凱の新しい家族ということだな。