決別(いよいよか…)
コーネリアス号のところまでついてきた、走が気に入っているらしい雌も、重症ではなさそうだが怪我をしていたので保護しようと考えた。重傷者の三人はコーネリアス号の治療カプセルで治療するが、その雌については走と一緒にこちらに来てもらうとしよう。
と、俺は考えた。それが一番だと。
なのに、走が乗り込もうとしても、その雌は決してローバーには近付こうともしなかった。さすがに警戒してるということなのだろう。すると走もローバーに乗り込むことをやめて、雌のところに引き返してしまった。
「走様…!」
と、メイフェアやセシリアが手招きして乗るように促す。
だが、駄目だった。走はメイフェア達に視線を向けるものの、もう近付こうともしなかった。雌の傍についていてあげたいんだろうと思った。そして俺は察した。
そうか…いよいよということか……
予感はあった。ライオン人間の群れと仲良くなって、好きな雌もできたらしくて、ただ子供同士で遊んでるように見えてても、あいつにとってはかけがえのない出逢いだったんだろう。そしてこれ自体も<自然の営み>だ。いずれ来る筈のものだったんだ。それが来ただけだ。
だから俺は言った。
「もういい、メイフェア、セシリア、走の好きにさせてやってくれ……」
しかし、そんな俺に異を唱える者がいた。シモーヌだ。
「そんな!? あの子達をこのまま放っていくんですか…!?」
彼女がそう言うのも、<人間>であれば当然だと思う。人間の基準でなら見た目にはせいぜい十歳を過ぎたくらいにしか思えない、しかも実年齢にいたってはまだやっと五歳になったばかりのあいつらを、オオカミ竜のような猛獣が腹を空かせてうろついてるところに置いていくなど、普通は有り得ないし、人間社会であれば<保護責任者遺棄>として罪を問われても仕方ない話なのも分かってる。分かってるが、残念ながらここは<人間社会>じゃないし、いくら俺の子供ではあってもあいつらはあくまでこの世界に適応した生き物だ。それが事実なんだ。
「シモーヌ。あいつらのことを心配してくれてありがとう。だが、分かってほしい。走は自分で、彼女と一緒にここで生きていくことを選んだ。それをやめさせることは俺にはできない……
ここじゃ俺達の方がむしろ<異端>であり<異物>なんだ。俺達の感覚を押し付けようとしても通用しないんだ。俺達の側があいつらに合わせるのが基本になるんだよ。俺達が主張できるのは、十のうちのせいぜい一つか二つだと思う。
文明の利器を使ってこうして生き延びて家族を守ろうとしてることだけでも相当な我儘だと思う。だからそれ以上は望まない方がいいと俺は思ってるんだ」
「……」