トラブル(まあ、ありがちではあるが)
「正直、二千年以上も経ってるという実感はありませんが、コーネリアス号の状態を見れば少なくない時間が経過したことは確かに感じますね……」
電磁調理器や洗濯機、収穫した野菜、工作室で作っていた生活用品類、シモーヌ自身の私物等の積み込みを終えてメイフェアとセシリアが交代でメンテナンスを受けている間、俺とシモーヌはモニター越しに話をしていた。
その時の彼女は、俺が思っていたよりは落ち着いているようだった。いや、落ち着いてからこうして話をしてるということかな。実際にコーネリアス号に帰ってみて想うところはあっただろうし、何より、自分の為の墓標を見たりもしただろうし……
不定形生物に襲われると骨まで融かされて吸収されるそうだ。だからそれで亡くなった搭乗員達の墓には遺体はない。ただ墓標だけが立っている状態だ。
そんな彼女にセシリアがお茶を出してくれていた。先にメンテナンスを終え、シモーヌに寄り添ってくれている。
メンテナンス用のカプセルは何機もあり機能も回復させられているのでメイフェアとセシリアが同時にメンテナンスを受けることも可能なんだが、シモーヌに寄り添うことを優先しているので交代で受けることにしていた。
だが、シモーヌの隣に座ろうとしたセシリアが何かに反応するようにすっと立ち上がる。
「どうしたの?」
シモーヌに声を掛けられて、セシリアがローバーの窓から外を見詰めつつ応えた。
「走様と凱様がトラブルに巻き込まれています」
「…え!?」
俺とシモーヌが揃えて声を上げてしまった時、メイフェアから通信が入る。
「私が現場に向かいます…!」
メンテナンスを中断してコーネリアス号から飛び出していくメイフェアを別のカメラが捉えていた。
映像を、走と凱を見守る為に飛ばしていたドローンのそれに切り替えると、二人が何かと戦っている最中だった。
「オオカミ竜…!?」
思わず声に漏れたとおりだった。二人はオオカミ竜の襲撃を受けていたのだ。いや、厳密には、オオカミ竜の襲撃を受けたライオン人間の群れの巻き添えを食った感じだろうか。
それは最近、二人が草原に行くたびにコンタクトを取っていた群れだった。最初はボスに威嚇され追い払われていたのだが、どうやら走がその群れの雌(恐らくボスの子)に気があるらしくて、それを目当てに接触を図っていたらしい。凱はまあ、走に付き合っていただけらしいが。
何度か接触を図るうちに、走や凱に群れを乗っ取る意図がないことが伝わったのか、ボスの方も、子供同士で遊んでる分には威嚇しなくなっていた。だがそこをオオカミ竜の群れに襲撃されたようだ。
ボクサー竜によく似た外見をもち、しかし体は二回り以上大きく、二十頭前後から大きければ三十頭ほどの群れをつくるオオカミ竜は、草原の生物ピラミッドの頂点と目されてる獣だった。