墓参(二千年以上ぶりか…)
新暦〇〇〇七年十一月十五日。
シモーヌの家が完成し、内装や設備を整える為と、コーネリアス号に残してきた彼女の私物を取りに行く為に、夜、メイフェアとセシリアの<里帰り>に彼女も同行することになった。また、走と凱も一緒だ。
走と凱もシモーヌのことは既に慣れていて、頭を撫でてもらいにすり寄ったりすることもある。巣立ちまでそう遠くないだろうが、まだ甘えたい部分もあるようだ。まあこれも、生まれた時から人間に飼われているトラが成体になってもまるで猫のように甘えたりするのと似たようなことかな。
「それでは、行ってきます」
メイフェアがコーネリアス号に搭載されていた方のローバーの運転席からそう言った。助手席に座ったシモーヌも頭を下げて挨拶している。
「気を付けてな」
俺もそう応えて手を振りつつ見送る。ちなみにエレクシアは既に誉のフォローの為に密林に入っている状態だ。それにその場にいなくても通信で連絡は取り合える。
ここまでで、コーネリアス号に搭載されていた通信用の中継器を設置、道中でも通信が確保されるようにはしてきた。コーネリアス号に着けば高出力の通信機もある。暗号化通信は二千年の間に規格が違ってしまって互換性がない為に使えないが、オープンチャンネルでなら問題ない。
あと、シモーヌも乗っているのでより安全な俺のローバーを使った方がいいのではとも思ったんだが、万が一の時を想定すればこそ、シモーヌ自身も操作に慣れている方のローバーがいいということでそうなった。まあ、俺のは鷹と翔の寝床でもあるからな。
俺は宇宙船に籠って、タブレットを通じてやり取りをする。
「なんだか緊張しますね」
ある意味では二千年以上ぶりの<里帰り>であるシモーヌが困ったみたいな笑顔を浮かべながらそう言った。
「はは、さすがにその気持ちは想像もできないが、二千年ぶりとなれば戸惑うのも分かる気がするな」
俺が応えると、シモーヌも「ふふ」と笑った。
週に一回のペースで何年も行き来し、すっかり慣れた行程なので平均速度は三十キロ強というペースで移動。三時間ほどでコーネリアス号に到着した。
ローバーを降りてからのシモーヌの様子は分からない。それを知るのはメイフェアとセシリアだけだ。コーネリアス号の脇に建てられた搭乗員達の墓標にも参ったのだろう。それを見て彼女は何を思ったのだろうか……
メイフェアに続き、そして搭乗員としてはおそらく初めて、二千年以上の時間を経て帰還を果たしたシモーヌ。
厳密には、
<秋嶋シモーヌの記憶と人格と姿を再現された別人>
ということにはなるんだろうが、しかし今のシモーヌ自身にはその割り切りはまだできていないだろう。
彼女の胸中を想い、俺も、胸が締め付けられるような気分を味わっていたのだった。