秋嶋シモーヌ(本当にこんなことになるなんて)
雷雨の中、河でワニ人間を相手に戦うメイフェアのバックアップの為に、エレクシアも駆けつけた。
「秋嶋シモーヌの保護をお願いいたします!」
タブレットから、エレクシアに宛てたメイフェアの通信が聞こえてくる。それに合わせて俺も、
「エレクシア! 秋嶋シモーヌを連れて離脱しろ! 救急対応!」
と命じる。
「承知しました」
エレクシアは淡々とそれに応えて、透明な体の秋嶋シモーヌに話しかける。それと同時に、映像がエレクシアのカメラに切り替わる。
「私はメイトギアのエレクシアYM10です。あなたを保護します。よろしいですか?」
そう声を掛けられて、秋嶋シモーヌの顔に安堵の表情が浮かぶのが分かった。
「お願い、助けて…!」
その言葉にエレクシアは、ポシェット内の救急セットの中から注射を取り出し、「鎮痛鎮静剤です」と告げながら彼女の肩口にそれを押し付けた。一見して重傷だと確認できたから、ショック状態にならないように使ったのだ。<鎮痛鎮静剤>と言っても、実は鎮痛剤及び鎮静剤と同時に治療用ナノマシンが注入されるタイプで、傷口からの出血を抑え各臓器の働きをサポートする効果もある。
それから手際よく彼女の体にハーネスを掛けていく。背負って運ぶ時に振り落とされないようにする為だ。
「私の背に掴まってください」
エレクシアがそう告げて背を向けると、秋嶋シモーヌが飛び付くようにして掴まるのが分かった。
彼女の体に掛けたハーネスによって自分の体に固定し、すっとエレクシアが振り返ると、視線の先に來がいた。
「彼女を守ってくださいまして、ありがとうございます」
エレクシアの言葉が分かったのか、來はコクリと頷いた。それを確認した瞬間、映像が密林の中を駆け抜けるものに変わった。エレクシアが秋嶋シモーヌを背負ったまま、密林に駆け込んだのだ。
「こちらエレクシアYM10、要救助者を確保。これより帰投します」
と通信が入る。それに合わせてカメラがドローンに切り替わり、通信を傍受したメイフェアがワニ人間を振り切って河から出ようとする姿を捉えた。しかし足元がぬかるんで上手く力が入らないのだろう。水中でもがくような動きをしながら、ワニ人間に纏わりつかれながら、這う這うの体といった様子で河から上がってくるのが見えた。
しかし、しっかりした地面に足を着けられればしめたもので、あとは纏わりついたワニ人間をまとめて河に放り投げ、その様子を見ていた來に「ありがとうございました!」と深々と頭を下げ、密林へと戻っていった。誉のところに戻る為であった。