幕切れ(終わる時は呆気ないものだな)
「ギ……ッッ!?」
女王は一瞬だけそう叫んだが、それ以上は声を出せなかった。頭部である<人間の肉体に似た部分>を、下から上へと切り裂かれ、脳まで両断されたからだろう。
それで終わりだった。実に呆気ない幕切れだった。殆ど機能していない透明な内臓を溢れ出させ、透明な体液を迸らせながら、女王はその場に崩れ落ちた。どれほど怪物のように見えてもただの生物であることを思い知らされる姿だった。これが本当の<怪物>なら、盛り上げる為にもう一足掻きくらいはしてくれるのかもしれないが。
その光景を目の当たりにしたメイフェアは、グンタイ竜にまとわりつかれながら呆然としていた。カメラの視点がエレクシアのそれに切り替わるとメイフェアの顔が映り、グンタイ竜の血が涙のように滴っているのが見えた。
だがそんな彼女に対して話し掛ける者がいた。
「うおっ、おっ! うおおっ!!」
エレクシアがその声の主の方に視線を向ける。するとそこにいたのは、白い塊のような何かだった。
「誉様…」
その呟きを聞くまでもなく、俺にも分かった。誉だ。あいつが木の上からメイフェアに何かを話しかけるように声を発していたんだ。それは怒っているようにも、諭しているようにも見えた。
「……申し訳ございません…」
メイフェアはうなだれて、ただ一言、それだけを口にした。それはまるで、勝手な真似をして主人に叱られているメイドのような姿であった。
その後どうなったかと言えば、「うおっ!」と最後に一声発して背を向けて移動を始めた誉に追いすがるようにメイフェアもその場を去った。
それからはエレクシアが地面に落ちていたショットガンを拾い、残ったグンタイ竜を掃討した。女王を失ってもただひたすらに立ち向かってくる彼らに対し、何一つ言葉を発することもなく淡々と。
ショットガンの弾丸が尽きる頃には、ただグンタイ竜の死体が地面を覆い尽くす光景が広がっているだけとなった。
卵も一つ残らず踏み潰して破壊し、こうして、夜が明けるまでの間に、グンタイ竜は完膚なきまでに殲滅され、駆除され、姿を消した。
凄惨とも言えるそんな状況だったが、今日のところはエレクシアには引き返してもらった。ただ同時に、これほどの大量の死体を放置しては後が大変だろうし、今夜にでも再度出直してもらって土で埋めるなりなんなりしてもらおう。
とにかく俺も、タブレット越しに顛末を見守っているだけでももうへとへとに疲れてしまった。伏も途中で起きて宇宙船から出て行ってしまったし、すまないがセシリアに任せて今日は寝坊させてもらう。
俺が寝ている間にエレクシアも戻ってきてメンテナンスと洗浄を受け、いつもの仕事へと戻っていたのだった。