闘い(どうあってもメイフェアは勝てないんだよ)
自分達にまとわりつくグンタイ竜のことは意にも介さず、エレクシアとメイフェアは闘った。
いや、厳密には闘っているつもりなのはメイフェアの方だけで、エレクシアにとってはあくまで女王を駆除する為の作戦中に生じた些末なトラブルに過ぎないんだろうけどな。
同時に、グンタイ竜にとっては大変な災難かもしれないが。とは言え、害虫駆除という名の殲滅戦であることには変わりなく、勝手に巻き込まれて始末されてくれる分には何の問題もないと言うべきか。
しかしここまでくるとさすがに憐れにも見えてきてしまう。こいつら本当に、何の為に生まれてきたんだろう……。
俺のそんな感傷すら知ることなく、エレクシアは女王を駆除する為にメイフェアを何とか振り切ろうと努めた。
『メイフェアを傷付けるな』という俺の命令を忠実に守り、メイフェアを壊さないように手加減をしつつ女王を目指す。
メイフェアを壊してでもとなれば、おそらく三秒と掛からなかっただろう。でも俺は『壊すな』という意味で『傷付けるな』と命令した。
要人警護仕様のメイトギアのボディは、皮膚に見える部分も服に見える部分も手で触れると柔らかい高性能な衝撃吸収材でできており、とてもそうは思えないが着弾のエネルギーを分散し受け止める。だから地面に叩きつけられたくらいでは悪くてもボディに小傷が付く程度だ。この場合、それすら駄目だという意味では言っていない。専門的な技術を要する修理が必要な破損は駄目だという意味である。
メイフェアを動けなくするだけでも、そんなには難しくない。いくら対弾対刃対爆性能が高い要人警護仕様のメイトギアとは言っても、人間そっくりの華奢なボディでは関節部の強度を上げるには限界があり、過度に不正な力が掛かると関節部が変形してしまってスムーズな動作ができなくなる。
つまり、エレクシアはメイフェアの関節を狙って攻撃すれば動きを止めることは簡単なのだ。だがそれをすると、修理を行う当てもないこの惑星では、メイトギアとしては完全に機能を失ってしまう。それだけは避けたかった。せっかく二千年もの期間を、土埃を被りながらも乗り越えてきたメイフェアにそんな形で最期を迎えさせてやりたくはない。
それに、メイフェアはあくまで誉の<嫁>だ。俺が勝手に処分することはできない。
何より、エレクシアが勝つのは分かっているんだ。引くつもりがないということは、メイフェアはエレクシアに対して手加減するつもりもないだろう。そもそもこれだけの性能差がある以上、手加減などできる筈もない。己の性能を最大限に引き出す為に全力稼働を行っている。こうやってそれを続けさせてやれば、いくら無線給電機がカバーできる範囲内にいたとしても十五分程度で彼女は動けなくなるだけだ。
幸い、女王は岩の隙間の奥に身を潜めて隠れているつもりになっているようだった。逃げ出されたりすると面倒だったが、その心配もないようだ。体は大きくても、やはり知能の点では凶程でさえないんだろうな。いや、凶のように出歩いて経験を積まず、ただこうして卵を産んでるだけだったから知能が発達しなかったのかもしれないが。