覚悟(まあ、野生じゃパートナーを見つけるのも命懸けだよな)
「ほぼ間違いなく嫉妬ですね、これは」
エレクシアに言われるまでもなく、俺もそれを強く感じてた。しかし、なんでだ? 刃はいったい、何に対して嫉妬してるんだ?
そんな俺の疑問に答えるようにエレクシアが語り始める。
「刃はおそらく単独で行動するタイプの生物だと思われます。また、刃のように攻撃性の高い生物にとっては<強さ>が大きな意味を持つでしょう。その意味ではこの場にいる者の中で私が最も強いですが、女性を模した外見をしている上に生物ですらありません。
となれば、彼女を退けてみせたマスターに対して興味を抱くようになっても無理はないでしょう。唯一の雄ですし」
「まあ、そうだよな~」
何となく想像はついてたのだができればあまり考えたくなかったことをズバリ突かれて、俺は頭を抱えそうになった。
とは言え、ここまで関わってしまうと無下にするのも忍びない。が、刃に対してはどう接するのが正解なんだ? 密は体を擦りつけてくるのを受け入れるだけでよかったみたいだが。
「エレクシア、この場合、どうするのが正解だとお前は推測する?」
「そうですね。外見上は昆虫の特徴を持つ刃ですが、肉体的な構造は人間とほぼ変わりません。痛覚や触覚などの五感もかなり近いと思われます。となればやはり、肌を触れ合わせることが一番かと」
「やっぱり、そう思うか」
想像した通りの答えが返ってきて、俺は覚悟を決めるしかないと思った。良好な関係を築くには、必要なことだと割り切るしかないと思った。
「エレクシア…ヤバいと思ったら助けてくれよな」
「もちろんです、マスター。私はその為にいるのですから。心配ありません。刃が十センチ動く間に私は二メートル動けます。今の位置でコンタクトを行っていただけるのでしたら、マスターの喉笛に噛み付く前に止めることができます」
「そりゃどうも……」
淡々とエグイことを言ってのけるエレクシアを信じ、俺は刃に向かって、
「こっちにくるか…?」
と手を差しのべた。
俺の動きに一瞬、刃の体がピクッと反応する。だが、それを見た瞬間、俺の中で何かがストンと収まった。
…そうか、そうだよな。あいつも怖いんだ。
当然か。あいつにしてみれば、いくら俺が強い雄に見えたとしても、いや、強い雄だからこそリスクもあるんだ。こういう生き物は共喰いも珍しい事じゃない筈。強い雄に近付くということは、自分が食われる危険性もあるってことだろうし。
それに気付いたことで、俺は自然と柔らかい表情になっていたのだった。