失敗作(エレクシアの言うことももっともだが…)
メイフェアXN12Aはさらに言う。
「あれが秋嶋シモーヌの姿を完全に再現している以上、人間としての部分も再現されている可能性があります! 私はそれを否定することはできません!」
だが、そんな彼女にエレクシアはなおも冷淡だった。
「否定も何もありません。あれが人間でないことは厳然たる事実です。人間はあのような形態をしていません」
これが、ロボットとしては正しい認識だ。ロボットは<生物としての人間>では有り得ない姿をしているあれを人間とは認識できない。あくまで<人間として成立している情報>に基づいて人間とそれ以外を区別している。それに照らし合わせれば、あの怪物は人間じゃない。
しかし、たとえそうだとしても、一部分だけであったとしても、完全に人間の形をしているものを『もしかしたら』と思ってしまうのは人間の心や感情としてはむしろ正常だと言えるだろう。ましてや自分が大切だと思っていた相手ならば。
俺も、もし、あの女王が妹の姿をしていたら、躊躇うことなく駆除を決めることはできないと思う。
そんなことは有り得ないと理屈では分かっていても、『もしかしたら』と思ってしまうのだ。それが人間とロボットの違いだ。
当然、人間にもその辺りを割り切れてしまうのはいる。しかしそれも、『もしかしたら』というのが頭をよぎった上で敢えてそれを抑え付けることができるだけだろう。そういうのが身に付いてるだけだ。だが、ロボットは本来、そうじゃない。『もしかしたら』というのがそもそもよぎらない。人間ではないと判断した上で、可能性を検証してみた際に『もしかしたら』と思うことはあっても、それが先に来ることはないし囚われることもない。
なのに、メイフェアXN12Aは人間と同じように考えてしまうのだ。『もしかしたら』が先に来てしまうということだな。
だから次に彼女がそれを言いだしたのも、ある意味では当然のことかもしれない。人間なら無理もないことだろうから。
「…もし彼女を攻撃するというのなら、私はそれを阻止します……!」
強い決意が込められた声だった。もう完全に人間のそれと区別がつかない。
それでもなお、エレクシアも当然のように譲らなかった。
「メイフェアXN12A。あなたが試験的なアルゴリズムを搭載していることは私も理解しています。しかし、私はあなたよりもはるかに高度なアルゴリズムによって動作しています。技術差は歴然としているのです。
あなた方を使った試験から得られたデータが私達に活かされている以上、正式な記録さえ残されなかったあなた方は私から見れば<失敗>でしかないのです」