茫然(いや、いくらなんでもそれはヒドイだろ)
こいつらがどういう形で交尾して繁殖してるのかはこの際どうでもいい。だが問題は、このサイズでこの異常な繁殖力だ。働きアリのようにせっせせっせと作業をしてるグンタイ竜の中に、時折、一回り以上大きい個体が見える。もしかすると、凶のように<前線の指揮官>的な存在かもしれない。
と思うと、その大きな個体を先頭に、十匹くらいのグンタイ竜の集団が密林の中に消えていくのが分かった。そして別の方向から、鳥や小動物を口に咥えた集団が現れる。なるほど極めてアリに似た生態だな。
それを確認し、俺はエレクシアに命令した。
「じゃあ、すまないが今夜、行ってきてくれるか?」
あらかじめ言っておいた通り、今回はあくまで<威力偵察>が目的だ。群れにちょっかいを掛けてどういう反応をするのかを確かめ、十分に今の装備で対処できるならそのまま駆除し、何か問題がありそうならいったん撤退してどう対処するかを検討するというのが今回の作戦だった。夜行性である伏達以外が寝付いてセシリアだけでも手が足りる夜に決行してもらう。
だがそれを確認した俺達のところに、通信が入る。メイフェアXN12Aだった。
「錬是様、お願いがあります…!」
ロボットでありながらどこか焦っているかのようなその声に、俺はただならぬものを感じていた。
「発言を許可する。なんだ?」
やや形式ばった形で応えた俺に、メイフェアXN12Aは思いもよらないことを言ってきた。
「今回の駆除作戦を、中止してください。いえ、作戦はいいのですが、<彼女>は助けてください…!」
…<彼女>…? 彼女って、なんだ…?
一瞬、言っている意味が頭に入ってこなくて戸惑っていた俺に、メイフェアXN12Aは改めて言った。
「間違いありません…! 彼女は…彼女は秋嶋シモーヌです……!」
「……は…?」
「あの透明な個体は、秋嶋シモーヌに間違いありません! 彼女を助けてください!」
…な…! あ…!?
ようやく意味が理解できた俺は、言葉も出なかった。『透明な個体』、つまり、あの女王らしきアリ人間っぽいのが、<秋嶋シモーヌ>だと!? コーネリアス号乗員の…!?
いやたしかに、あの不定形生物が人間そのものを再現できる可能性があるんじゃないだろうかとは思ってたよ? でもまさか、こんな形で、だと…!?
まあ、あの形でキメラが出来上がるのなら、人間の形質の部分はコーネリアス号の乗員の遺伝子が使われるのかもしれない。にしたって、これは……
あまりのことに、俺は、タブレットに映し出される<透明な体の女性>の姿を、ただただ茫然と見詰めていたのだった。